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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


和也side


大丈夫だ、って分かってる。

雅紀さんは俺なんかよりも、うんと大人だし、それにとっても聡明な方だし‥

でも相手はあの男だ。

あの蛇のような目をしたあの男が、すんなり雅紀さんの言うことを受け入れるとは、とても思えないんだ。

雅紀さんにもしものことがあったら‥、俺‥

やっぱり不安だよ‥


「いいかい和也、良くお聞き?和也の言う通り、確かに松本は恐ろしい男だ。それは私も長く付き合いだからよく知っているつもりだ。でもね、松本だって昔からあんな男ではなかったんだよ?」

「潤坊ちゃんが‥?だって俺の知ってるあの人は‥」

人を人とも思わないような、血も涙もないような、冷酷な男と言う風にしか見えない。

「何がああも松本を変えてしまったのか、私には到底想像もつかないが、私は信じたいんだよ。‥松本の中に残った良心をね‥」

俺を胸の中に収め、雅紀さんが一瞬声を詰まらせる。


泣いて‥る‥?


そう思った俺は、咄嗟に上向かせた視線を俯かせた。

雅紀さんのことだから、きっと俺の前では強くありたいと思っている筈だから‥

本当は誰よりも脆くて、傷つきやすくて、心根の優しい人なのに‥



「名残惜しいが‥」

暫くの間黙ったままだった雅紀さんが、俺の顎に手をかける。

そして俺の顔を上向かせると、親指の腹で俺の唇を撫でながら、少しだけ赤くなった目元を綻ばせた。

「これ以上和也をここに引き留めるわけにはいかないね‥」

胸にしがみ付いたままの俺をそっと引き剥がし、腰に回した腕で俺を立たせた。

「さあ、門まで送ろう」

俺より一回り大きな雅紀さんの手が俺の手を握る。


この手を離したくない‥


そう思った俺は、踵を返そうとした雅紀さんを見上げ、ゆっくり瞼を閉じた。
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