愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
「そんなっ‥雅紀さんが‥」
一瞬息を飲んだ翔君と私の身を案じるようにしがみ付いた和也。
「心配することは無い。私と松本は幼い頃から共に過ごしてきた友なのだ。人として間違ったことをしていると思えば、それを正してやるのも友としての証だろう。」
私たちは元に戻れるはずだ‥。
そう信じていた。
暫くの間沈黙していた翔君は
「わかり‥ました。」
渋々といった雰囲気で返事をしてくれたものの、和也は唇を結んだままそっぽを向いてしまった。
その横顔はどう見ても納得しているものではなくて‥。
気遣わしげに見ていた翔君も、救いを求めるように私に視線を向けた。
どうしたものか‥
自分のことを心配してくれる可愛い恋人が愛おしくもあったが、窓の外を見ると日も暮れて、これ以上引き留めることのできない頃合いだった。
私は仕方なく恋人の肩から手を離し
「さて‥そろそろ君たちも屋敷に戻らないと、心配されては困るからね。」
二人に帰るように促しながらも‥
「すまない‥翔君は先に下へ降りて待っていてくれまいか?」
立ち上がりかけた彼にそう声を掛ける。
その訳をすぐに理解した翔君は、黙って頷くと部屋を出ていった。
しんと静まり返った部屋で、さっきと変わらずそっぽを向いている恋人をどう説き伏せようかと考えていると
「‥ごめんなさい‥‥」
小さな声が聞こえてきて‥。
隣に座って小さな背中を撫でてやると、くるりと振り返った和也は下唇をきゅっと噛んだまま上目遣いで私の顔を見た。
どちらともつかない表情(かお)をしている恋人に何と声を掛けてやればいいのか。
「怒っているのかい‥?」
それとも‥
「違うんです‥、俺、やっぱり心配でっ!潤坊ちゃんはすごく怖いお方だし、雅紀さんに何かあったらって思うと‥」
やはり危惧していた通り、和也は私の服を握って、堰を切ったように不安を訴える。
私が二人の身を案じるように、愛しい恋人も私のことを心配してくれているのだと思うと嬉しくもあったが、決してこれ以上危ないことはさせられないという思いが一層強くなった。