愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
雅紀side
智が病に伏していると聞いて落ち着きを失っている翔君を宥めるのは一苦労だったが、どうにか聞きわけてもらい、
「祝宴が始まって暫くの頃を見計らって、私と和也が智を連れ出そうと思っている。」
その日どうするのかを二人に話して聞かせる。
でなければ、またきっと今日のように早く助けたいと言い出して‥二人だけで危ないことをするのではと気が気ではなかった。
「では私はどうすれば‥?」
ごくりと唾を飲んだ和也は真剣な目でそう尋ねる。
「私が目配せをして広間を出たら後から付いてきなさい。あと、背広を‥翔君の部屋に用意しておいてくれないか?」
「背広‥ですか?」
一つずつ含めるように話す私を怪訝そうな表情(かお)で見た翔君は、何故そんなものがいるのかと不思議に思ったようだった。
「そうだ。連れ出す時に場に相応しい服装をしていないと目立ってしまうからね。祝宴が始まれば暫くは誰も外へは出ないだろうし、その隙に私の屋敷に連れて来ようと思う。」
そこまで一息に話すと、目の前の二人はこくりと頷いた。
その後は何処か‥小さな宿を探しておいて、身を潜めさせておくのが一番安全だろう。
「あの、おれは何をしたら‥?」
一見、役目のなさそうな翔君が、少し遠慮がちに声を出す。
「君は松本が広間から絶対に出ないように引き留めておくんだよ。一番‥難しくて、でも君にしかできないことだ。できるね?」
それが他の誰にもできない役目を自分がするのだとわかった彼は、目を輝かせて大きく頷いた。
これで大丈夫‥か。
誰も傷つけてはならない。
失敗はできないと自分に言い聞かせる。
そして
「遅かれ早かれ、松本は智が居なくなったことに気づくだろう。その時は二人とも絶対に顔色を変えてはいけないよ。」
私は最も大切なことを、年若い二人を交互に見ながら念を押す。
「どうして‥、」
和也と顔を見合わせた翔君が何か言いかけるのを手で遮り
「そこから先は私の役目だ。松本に智を引き合わせてしまったのは、他でも無いこの私‥。後の始末は私がすべきことだ。」
はっきりとそう告げた。