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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


見合わせた三人の顔が一気に険しくなる。

多分考えてることは同じ、鍵の入手方法だ。

「あの‥、鍵は私がなんとか‥」


するしかないよな‥

何たって澤さんに、一番怪しまれずに近付くことが出来るのって、俺しかいないし‥


「またこの間みたいに、期を見計らって、澤さんの部屋に忍び込めば‥」

きっと上手く行く筈。

俺は意を決したように背筋をぴっと伸ばした。

でも、

「いや、待ちたまえ」

異議を唱えたのは、雅紀さんだった。

「私の意見を言わせて貰えば、和也にこれ以上危険な真似はして欲しくないんだが‥、どうだろうか、翔君」

「お、俺のことなら心配は‥」

「おれも同じです。和也を危険な目には合わせたくありません。でも、他に方法が‥」

それきり、黙りこくってしまった俺達の間に、時を刻む振子の音だけが、やけに大きく響いた。



「やっぱり俺がやります。いえ、やらせて下さい」

最初に沈黙に耐えきれなくなったのは、俺だった。

俺は雅紀さんと翔坊ちゃんに向かって頭を下げた。

「お二人が心配するような危険な真似は、絶対にしませんから‥。だからどうか‥」


今の俺が智さんにしてやれることって、それくらいしかないから‥


「分かった。和也がそこまで言うのなら、鍵の入手は和也に任せよう。但し‥」

雅紀さんの大きな手が俺の頭を撫でる。

「無茶だけはするんじゃないよ?約束してくれるかい?」

「雅‥紀さん‥。はい、約束します」

顔を上げると、そこには困った子だとばかりに綻ばせた雅紀さんの顔があって‥

一瞬絡み合った視線に、胸が跳ね上がる。

「あ、あの、手を‥」

いつの間にか俺の頬を包んでいた手を掴む。


坊ちゃんが見てる前なのに、雅紀さんたら‥


「あ、ああこれは失敬。私は君を見ているとつい‥」

照れ隠しなのか、雅紀さんが一つ咳払いをして坊ちゃんに向き直った。

そして、

「翔君、君もだよ?私は年若い君達に、出来ることなら危険は冒して欲しくはないが、それしか方法がないなら仕方ない。けど、無理だけはするんじゃないよ?いいね?」

俺達のことを心底案じるような雅紀さんの目は、心做しか潤んでいるようにも見えた。
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