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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


雅紀side


夕方遅く部屋に戻ると、書斎机の上に宛名だけが書かれた一通の封書が置いてあった。


その送り主が翔君ということもあり急いでその文面を見ると、少し乱れた文字で私に急いで相談したいことがある旨が認めてあり、もしかしたら何事かあったのかと一抹の不安が過ぎる。

酒席で見た松本の様子は変わりないように見えたから、何かあったとすれば智の方‥。


どうすれば‥‥


一応、置き時計を確かめててみたが到底身動きの取れる時刻ではなく、取り急ぎ返事を持たせた遣いを松本の屋敷へ向かわせた。


焦れる気持ちはあるものの、無鉄砲に走り回ることもできない。

明日も夕方までは留守にしなければならないし‥夜はまた学友たちを誘い松本を酒席に連れ出そうと考えていた。

今の私には少しでも多く松本を連れ出して、智から遠ざけてやることぐらいしかできなかった。

言葉を濁しながら話していた翔君の様子だと、松本は智を抱いている。


松本はかつての私と同じように‥あの子を愛しているのだろうか?

それもとあの美しさに溺れてしまっただけなのだろうか‥。


いずれにしても智が鎖に繋がれるような扱いをされているのであれば、できるだけ早く‥そして確実に連れ出してやらねば。



私は初めて出会った時に泣いていた智の横顔を思い出してしまった。

あの時は幼かった智が寂しがって泣かないようにと、ただそれだけを思っていた。


丁度‥今の翔君と同じ歳頃‥

あの頃は無力だった私も、今ならあの子たちの力になってやることができる。

泣いていたという智の顔があの頃の面影と重なり‥

助けたいという翔君の想いが昔の自分と重なる。

あの頃は無力だった私も、今ならあの子たちの力になってやることができる。

必ず‥あの子たちの行く末が明るいものになるように‥

そうすれば私も救われるような気がした。




私が帰宅する前に屋敷に来ていた和也たちは、どうやら母上に見つかってしまったらしく、話し相手をさせられていた。

和かに話をしている翔君の隣では、まるで置物のように顔を引攣らせて居心地が悪そうにしている和也がいて‥。

その不安げな表情(かお)に思わず微笑み(えみ)が洩れてしまった。



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