愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
兄さんはいつも通り帰ってきたけれど、夜は静かで‥まるで人の気配を感じられないほどだった。
智の存在を知るまでは、それが普通だったのに‥
でも今は、あまりの静けさにどうしていいのか分からなかった。
それは智が兄さんに抱かれてない証拠でもある訳だし安心といえばそうなんだけど、病に伏してるからだって思うと手放しでは喜べなくて。
複雑な思いで一夜を明かした。
翌朝早くに目を覚ましたおれはふらりと庭に出る。
今までおれは自分の置かれた立場なんて考えたこともなかった。
当たり前のようにこの屋敷に住んで、温かい食事を摂り学校に通って‥
不自由なんて一度も感じたことはなかった。
でもおれが当たり前に持っているもの‥それは智だって持っていた筈のものだった。
それを奪ったのは父様‥そして兄さん
おれはそれをどうやって智に償えばいいんだろう‥。
謝ったって謝りきれるものじゃない。
その罪の重さに押し潰されそうだった。
いくら考えたって答えなんて出る筈もなくて、気分の晴れないまま部屋に戻ろうとすると、おれを探しにきた和也がこちらに歩いてくるのが見えた。
「おはようございます。お部屋にいらっしゃらなかったので心配しました。」
少し息を切らしてるところをみると、あちこち探し回ってくれたのかもしれない。
「ごめん‥。早くに目が覚めたんだけど、部屋に居てもどうにも落ち着かなくて‥。散歩してみたんだけど、あまり気分も変わらないし戻ろうと思ってたところだったんだ。」
「そうでしたか。そろそろ朝食の時間ですし‥それにどうやら潤坊っちゃまが今晩お出掛けらしいって話してるのが聞こえたんで、前みたいに鍵を持ち出すことができたら智さんの様子を見ることができるかもってお伝えしたくて‥。」
「本当に?」
おれは思わずその肩を掴んでしまうほど嬉しくて。
「でもあまり期待はされない方が‥はっきりとは分からないので‥。」
和也は言葉を濁してしまったけれど、少しでも希望が見えたおれは前を向かなきゃって‥そう思うことができた。