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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


しばらくすると部屋の前を遠ざかっていく足音がしたから、そっと木扉を開けて外の様子をうかがって‥

もしかしたら兄さんの部屋の木扉が開きっぱなしになってるかもしれないと思い、そこへ走っていってみたものの、現実はそこまで甘くはなくて。


やっぱり駄目か‥


固く閉ざされた木扉の前ではなす術もなかった。

中の様子が分からないから迂闊に騒ぐこともできなくて自分の部屋に引き返すと、また木扉にへばり付いて廊下を往き来する澤の足音を聞いていた。


何かあったんだ‥


おれはすぐにでも澤を捕まえて、鍵を取り上げてしまいたい思いでいっぱいになる。


ああ、もう‥

こんなにも気になって苛立ってしまうのに、何もできないなんて!


いくら時間が経っても落ち着かない。

澤が出入りしてるから壁も叩くことができないし、まして声を掛けるなんて‥絶対にできない。

結局、隣の部屋‥兄さんの部屋の中にいる智がどうなっているのか分からないまま時間だけが過ぎていった。




昼を回って漸くお茶を持ってきた和也に聞いてみたけれど、忙しく仕事をしていた彼はそのことすら知らなかった。


「兄さんが出掛けてるのに呼び鈴を鳴らすなんて、余程のことに違いないよ!そんな切羽詰まったことになってるのに‥隣にいるおれは何もできない‥!悔しい!」

ずっと苛立ちを溜め込んでいたおれは、和也の顔を見た途端、それをぶち撒けてしまった。


「お、落ち着いて下さい、坊ちゃん。私が何とか探ってみますから‥ね?」

おれの足元に膝をついた和也は宥めるように背中をさすりながらそう言うと、

「ちょっと台所の方にいってみます。あそこの者ならなにか知ってるかもしれませんし‥、ほら、具合が悪かったりしたら口に合うものをこさえてるかも。だから私が戻ってくるまで坊ちゃんは待ってて下さいね‥?」

なんとかそれだけ言い置くと、慌てて部屋を出て行った。


ぱたんと閉まった木扉の音に続いて出てしまった大きな溜め息。


おれは何の役にも立たない‥

こんなにも近くにいるのに!


歯痒くて‥苛立つ気持ちを何処にぶつけたらいいのかもわからなかった。
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