愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
智side
全ての感情を捨ててしまいたかった。
そうすれば、希望(のぞみ)もしないのに身体を開かれる屈辱も、貫かれる痛みも、それから‥翔君への秘めた想いも‥
全部忘れられる。
だから身体の奥に潤の熱を感じた瞬間、僕は心に蓋をした。
瞼を閉じてしまえば、何も見なくて済む。
耳を塞いでしまえば、何も聞かなくても済む。
「僕は‥潤様のもの‥‥。ずっと‥」
これでいいんだ‥、これで‥
それでも溢れる涙が止められなくて、僕はそっと瞼を閉じ、感情だけでなく、意識をも手放した。
いっそこのまま死んでしまえたら‥
そんなことを願いながら‥
翌日、昼過ぎになって漸く目を覚ました僕は、まだ自分が生きていたことに、酷く落胆した。
そしてそれと同時に、身綺麗に整えられた寝巻きに、戸惑いを感じた。
あの人が‥?
まさか‥、そんなことある筈がない。
あれだけ感情をぶつけるように僕を抱いておいて?
ううん、きっと澤さんが‥
それにしても身体が燃えるように熱い‥
頭が割れるように痛い。
「けほっ…」
喉の奥に引き攣れたような痛みを覚えて、一つ咳き込むと、寝台の横に置かれた水差しに手を伸ばし、一緒に添えられていた硝子の器に注いだ。
たったそれだけの事なのに、鉛のように重たくなった身体が言うことをきかない。
「けほっ…ごほっ…」
胸に何かが詰まっているようなきがして、息をすることさえままならない。
やっとの思いで水を注いだ硝子の器を手にすると、それを渇いた喉に流し込んだ。
身体の芯に溜まった熱が一気に冷えていくのが分かる。
なのに身体の表面覆う熱は一向に冷めることはなく‥
僕は堪らず、潤が澤を呼ぶ時に使う呼び鈴を鳴らした。
潤が知ったら怒るだろうか‥
構やしないさ‥
どうせ僕はあの男の玩具なんだから‥
こんな身体‥いくらでもくれてやるさ‥
好きにすればいい。
僕は呼び鈴を鳴らし続けた。
壁の向こうに、翔君がいることも忘れて‥