愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
どれくらいそうしていたのか‥
服の乱れを直すと、床に倒れた冷たい身体を寝台へと運んだ。
僅かに身動いだ智は薄く目を開けて、ぼんやりと宙を見つめている。
何を考えているんだ‥
その目は何を見ている?
「お前は‥俺を愛していると言ったな‥?だから鎖も解いてやった。」
俺が正気を失くしたような横顔に静かにそう告げても、智は視線を動かすことなく一筋、涙を流すだけだった。
それは慾に濡れたものでも苦痛に耐えるものでもなく‥哀しみの色に染まったもののように見えて‥
無言で流れるそれが、更に俺の胸の中を苦しいものにした。
「俺はお前を手離す気はない。飽きるまでお前を抱く。」
それをぶつけるかのように冷たい言葉を放つと、智は涙の量を増やしていく。
「僕は‥潤様のもの‥‥。ずっと‥」
消えてしまいそうな声でそう言った智は、静かに目を閉じる。
諦めのようにも絶望のようにもとれる声色には愛はもちろんのこと、情慾すら含んでいなかった。
何がお前を変えた‥?
あれだけ慾に溺れていた身体は‥快楽を欲しがっていた智は何処に行ったっていうんだ?
「お前には心が無いのか。そんな上っ面だけの言葉に俺が騙されると思ったら大間違いだぞ。一番最初に言った筈だ‥俺を愛せと。そしてお前は俺を‥‥」
‥‥愛してると言って、抱かれ続けてきた。
いとも簡単に手に入ったそれに心が伴っていないことは承知の上だった。
でもそれが智の思う形なんだと満足し、それを奪い尽くしてやるつもりだったというのに、虚しい言葉と無言の涙を見てしまうと、今またそんなことに拘ってしまう自分がいた。
智が拒みさえしなければ‥
忘れかけていたものを思い出さずに済んだものを‥
「忘れるな‥、お前は俺のものだ。」
俺は打ちひしがれた者に、自分の苦しさを刃に変えたような言葉を突き刺した。