愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
潤side
苦しげに涙を流す姿に虚しさを覚えた。
俺を拒みさえしなければ‥
憎しみにも勝る哀しみの感情に襲われて、それが怒りにすり替わっていく。
思い通りにならない‥!
冷酷で俺を見ようともしなかった父親も‥
俺ではなく雅紀を慕った翔も‥
慾を弄べば従順だった智も‥何もかも‥
何で‥!
折れそうなほどの細い身体に激しく腰を打ち付ければ、声にならない叫びを苦しそうな息に変えている智の床に這う指の先は、蝋のように真っ白になるほどだった。
やがて自分の身体さえ支えきれなくなって崩れていく。
その中に熱を放つと、智は糸の切れた操り人形のように力を失った。
快感の頂を過ぎれば引き潮のように引いていく激情。
智の中から慾望を吐き出したものを引き抜くと、支えを失った身体は床に崩れ落ちる。
‥終わった‥‥
床に倒れたきりぴくりとも動かない智の足元で、気力を失ったかのように膝をついた俺は、そのまま思考を止めてしまった。
「智‥お前の信じてる愛とは快楽を共にすることだったはず‥。なのにそれを拒んだ。お前まで‥俺を愛さないのか?それとも‥‥欲しいものが手に入ったから、俺に抱かれる必要が無くなったか‥‥」
思考は止まっているのに、自分勝手に唇から言葉が零れだす。
俺は智の慾を弄んでいただけのつもりが‥それに溺れていた‥?
決して拒むことなどなかった智が、初めて本気で背中を向けようとしたことが許せなかった。
「くそっ‥っ!お前だけは裏切ることのない‥飽きるまで飼われているだけの男だったんじゃないのかっ」
目の奥がかっと熱くなり、理解しがたい涙が溢れ出す。
俺が涙だと‥?
ふざけるな!
俺は横たわっている智を、煮え滾る感情のまま見つめる。
濡れている口元から轡を外しても、智は目を開けることはなかった。
「ふ‥俺は紛れもなくあの男の息子だな‥冷酷で惨忍で‥‥誰にも愛されない‥‥」
そうなんだな‥?
智‥‥