愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
潤side
夜も更けて屋敷に戻ると、智は寝台の上にぼんやりと座っていた。
澤が白湯を持ってきたりと出入りしている間も声を発することも無くて‥
「珍しいな‥お前が大人しくしてるなんてことがあるんだな。」
「少し具合が‥先に休みたいのですが‥」
着替えながら皮肉混じりに言った俺の言葉に俯向いた智は、その気は無いのだと返事を返す。
「ふん、たったあれだけのことで音を上げるとは、口ほどにもないな。元は自分で蒔いた種だろう。這いつくばってでも自分の手で後始末をするのは当然だ。」
反対に、久しぶりに酔いが深くなってしまっている俺はいつもに比べると饒舌になっているようだった。
それに女と戯れていた学友達の姿に半端に淫欲を煽られてしまい、このままでは眠りに就けそうにもなくて‥
「‥そんな‥‥」
悲しげに瞳を揺らす美しい男を見ていると、妖しい欲望が疼きへと形を変えていく。
俺は脱いだ服を長椅子の背に掛けると、寝間着を羽織り寝台へと足を向ける。
そして布団の上に片膝をつき、白い顎に指を掛けて自分の方を向かせると
「それに‥お前は躾がなってないらしいぞ?」
昼間、あの男に言われた言葉をそのまま智にぶつけた。
すると智は怪訝な表情を浮かべて
「あの‥それはどういう‥、誰がそんなことを‥?」
探るような声を出し、揺れる瞳には更に不安の色を重ねていく。
堪らないな‥
俺は顎先に掛けていた指を薄く開いた唇の間へ挿し込み‥
「先刻の啼き声を父上が聞きつけたらしく、お前に轡を噛ませておけとな‥。」
「‥轡‥‥」
「くくっ、あいつは俺なんかよりずっと酷い男だからな。飼われたのが俺で命拾いしたな。」
「そんな‥ことを、僕に轡を‥‥」
残酷な言葉に茫然とした智を布団から引き摺りだし、自分の前に這い蹲らせる。
「ああ、あの男はどんな事をしてでも自分の思い通りにならないと気が済まないからな。‥なんだ、興味があるのか?」
「い、いえ、そんな‥」
怯えたように俺を見上げる姿は、艶やかに着飾った女達よりも遥かに俺の情慾を誘った。