愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
和也side
「はあ‥、疲れた‥」
使用人部屋へと戻った俺は、緊張で疲労の溜まった身体を布団の上に投げ出した。
まさかあそこで澤さんと出くわすなんて‥、心の臓が口から飛び出るかと思ったよ‥
思い出しただけで身体がぶるりと震えた。
それにしても‥
俺は翔坊ちゃんが一瞬見せた、戸惑いを誤魔化すような笑顔が気になっていた。
坊ちゃんは俺に何かを隠してる。
それも智さんのことで‥
そうだ、俺が智さんの様子を尋ねた時、あの時確かに何かを言いかけて、でも‥
智さんの身に何か‥?
智さんを屋根裏に囲って鎖で繋ぐような男だ、酷い目に合わされないとも限らない。
それに智さんのような人を目の前にして、普通でいられる筈がない。
大抵の男は‥いや、女だって、あの智さんの魅力には翻弄される筈。
現に雅紀さんだって‥例外ではない。
あの男が智さんに手も触れず、ただ放っておくなんてこと‥考えられない。
だとしたら‥、まさか智さんが、自分の兄である潤と、只ならぬ関係にあることを‥?
情事の痕跡をまざまざと見せ付けられていたとしたら‥
もしそうなら、言いかけて躊躇ったのにも合点がいく。
坊ちゃんはどんな思いでその光景を‥?
坊ちゃんの受けた衝撃は計り知れない。
なのにあんなに気丈に振舞って‥
坊ちゃんの心中を察すると、胸が苦しくなる。
俺は一人頭を抱えた。
いや、でも考えるのはよそう。
坊ちゃんは言ってくれたじゃないか、
「どんな智でもいいって思ってる‥」って‥
「気持ちは変わらなかった」って‥
その言葉を信じよう。
そして俺達の手で智さんをあの男の手から取り返そう。
きっと智さんはそれを望みはしないだろうけど‥
でも‥でも、あの人の‥智さんのあの天使のような笑顔を取り戻すためには、それしかないんだ。
もうこれ以上、智さんに傷付いて欲しくないから‥
俺は幼い頃の、何の穢れも知らず無邪気に笑っていた智さんを頭に思い浮かべながら、瞼を閉じた。