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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備



「で‥智さんはどんな様子でしたか?具合が悪そうだとか、怪我をしてるなんてことありませんでしたか?」

少し譲った長椅子に腰掛けた和也は、身を乗り出すと心配そうに眉根を寄せる。

「うん‥身体はね‥、でも‥」


和也は兄さんの部屋で智がどんな目に遭ってるのか‥知っているんだろうか。


兄弟同然に育った智が兄さんに身体を弄ばれているって知ったら、堪らない気持ちになるんじゃないかって。

そう思うと全てを話すことなんてできなくて、途中まで話し掛けて口を噤んでしまったおれを見た和也は

「でも‥でもって、智さんどうかしたんですか⁈」

逆に動揺を隠せない様子で拳を握り締める。

その切羽詰まった表情(かお)を見ると、余計に本当のことを話すのが酷なようにも思えた。


それに‥おれ自身も好きな人がそんな目に遭ってるなんて言いたくない。

おれはあの部屋で見た智の姿のことは、和也には話すまいと心に決めた。


握り締めた拳を震わせて身を乗り出す和也から目を逸らせたおれは、

「いや‥どうかしたっていうか、‥その、おれが好きだって‥助けたいんだって言ったら、嫌だって‥。自分は穢いからって泣き出しちゃって‥。」

とさっき見た智の様子だけを話した。

すると和也は一瞬はっとしたような表情(かお)をすると、

「そう‥ですか‥、智さんがそんなことを‥」

沈痛な面持ちになって、目を伏せてしまう。


おれにはその傷ついたような横顔が、智のそれと重なって見えて。

「でもおれ、どんな智でもいいって思ってる‥。今顔を見て、抱きしめて‥気持ちは変わらなかった。智は‥おれのことなんて何とも思ってないんだろうけどね‥。」

自分の気持ちだけは‥ありのままの想いだけは伝えてあげなくっちゃって思いに駆られた。

そうでなきゃ辛すぎる‥


「坊ちゃん‥」

「いいんだ‥それでも。智があの部屋を出て、笑ってくれる日がくれば‥それでいいって。おれ、智の笑ってる顔が見たい‥哀しそうな目をしてるのは耐えられないんだ。」


和也も‥ね。


「それは私も同じです‥。昔の天使みたいに笑ってた智さんに戻って欲しいって。ただそれだけなんです。ずっとそう思ってたのに‥止められなかった。止めて欲しいって思ってたのに‥こんなことになるまで‥。」

「和也も辛かったんだね‥。」


皆んな‥辛いんだ‥


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