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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


翔side


『もう行って‥』

そう言っておれの胸を押した智の哀しそうな瞳が目に焼きついて離れない。


涙を流しながら夢みたいだって‥

逢いたかったって言ってくれたのに‥

おれの服を握り締めて縋るような瞳をしていた智は自分のことを穢いって‥醜いって‥

そう言っておれの想いを拒んだ。


おれの想いは智にとって迷惑なものだったんだろうか。

逢いたかったって言ってくれたのは、ただ寂しかっただけ‥?

ずっと兄さんに囚われてて、人恋しかっただけなの?


やっぱり‥親の仇だから‥

自分を不幸にした人間の息子に好きだなんて言われたって、煩わしいだけだったのかもしれない。

あからさまに拒絶された訳じゃないけど、焦がれる想いを受け入れてもらうには程遠いっていう現実を思い知らされた。


智は無理矢理口づけたおれをどう思ったかな‥。

兄さんと同じだって‥嫌悪したりしなかったかな‥。


漸く逢うことができたって想いだけで智に恋心をぶつけてしまったおれは、今頃になってぐずぐずと思い煩い後悔しはじめた。

長椅子の上で膝を抱え大きな溜め息を吐いた時、入り口の木扉を叩く音がする。


「失礼します、和也です。」

扉の開く音と一緒に和也の声がした。

慌てて足を下ろしたおれは隙間から見えた姿に

「あ‥大丈夫だった⁈澤に気付かれなかった?」

心配のあまりそう声を掛けると、扉を閉めた彼は黙って頷いた。


「よかった‥。ほっとしたら力が抜けちゃったよ。」

間抜けな声を出したおれを見た和也も、

「それは私も‥膝は震えるし、風呂から戻ってきた澤さんと出くわして、縮み上がりそうになりました。」

その時のことを思い出したのか、ふるりと身体を震わせる。

「うわ‥間一髪だったんだ‥、怖い思いさせて悪かったね。」

「いえ、大丈夫です。もうやるしかないって‥腹を括りましたんで。」

顔を強張らせた和也は努めて明るく言ってくれたけど、ぎゅっと握っている拳が少し震えていた。


「ありがとうね‥和也のお陰で智に逢うことができた。感謝してもし尽くせないよ‥」


屋敷の中だとおれを見れば誰かしらが声を掛けてしまうから身動きが取れないし、頼みの綱は彼だけ‥和也だけ‥



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