愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
智side
僕のために誂えられた、憂いを湛えたような色味の肌触りのいい外套を身に纏う。
いよいよだ・・
いよいよ僕は僕は・・・・
決意にも似た気持ちで拳を握ると、緊張で強ばる顔に仮面を貼り付けた。
雅紀さんが愛した天使の仮面を・・
「見えて来たよ」
馬車に揺られながら、雅紀さんが窓の外を指差す。
僕は少しだけ身を乗り出して、雅紀さんの差す指の方向に視線を向けた。
「ほら、あの煉瓦造りの塀が松本の屋敷だ」
あれが、あの男の・・?
僕は自然と込み上げて来る怒りを、雅紀さんに見えないように唇を噛んで堪えた。
なのに、
「おや、緊張しているのかい?そんなに指に力を込めて・・」
「えっ・・?」
視線を窓枠に掛けた手に移すと、僕の指はまるで血が通っていないかのように真っ白で・・
咄嗟に窓枠から指を外すと、すっかり冷たくなった指先を隠すように、もう一方の手で包み込んだ。
「え、ええ・・。だってこんな大きなお屋敷だとは思わなくて・・。僕なんかがお邪魔しては、ご迷惑なのでは・・?」
不安を装うように、声を震わせる。
すると大きな手が僕の髪を撫で、頬に唇が寄せられた。
「大丈夫、案ずることはない。君は私の傍にいればいい」
「・・・・はい」
「それに、今日の招待客の中には、有名な画家もいるそうだし、君の絵を見て貰うのには、またとない機会なのだよ?」
それで僕の絵を・・?
僕にパトロンなんて必要ないのに・・
僕が望むのはただ一つ・・
あの男の破滅・・それだけだから・・・・
やがて僕達を乗せた馬車が、松本の紋章が遇われた鉄の門を潜り、その奥へと吸い込まれて行った。
まるで森のような庭を抜けると、その先に見えて来たのは、真っ白な、西洋のお城のような建物で・・
一瞬、絵本で見たお伽話の世界に迷い込んだような・・そんな感覚を覚えた。
まさかこれ程とは・・
これが卑怯な手を使って僕の両親を死に追いやった男の屋敷なのか…
こんな物のために両親は・・
自然と熱くなる目頭に怒りの炎を宿して、僕は車窓から見える、真っ白な建物を睨み付けた。