愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
僕がどれだけ穢れているのか知っても尚、
「それでもおれ、智に逢いたくて‥智の笑ってる顔が見たくて‥。だから、ね、おれの傍にいてよ。お願い‥」
今にも泣き出しそうな声で僕の耳元に囁き続けた。
胸の奥に秘めた想いを吐き出すようなその言葉に、僕の胸が熱くなる。
いいの‥?
本当にこんな僕でいいの‥?
深い深い真っ黒な闇と、快楽というそこはかとない慾に塗れた、こんな僕でも‥、翔君はそれでもいいと言うの?
僕は知らず知らず翔君の上衣を握り締めていた。
この手を、離れたくない‥って、思った。
でも刻々と過ぎる時間は無情で‥
閉ざされた扉の向こう側から、遠慮がちに叩かれる音に、僕の身体が一瞬で強張る。
いけない‥
これ以上翔君をここに引き留めてはいけない‥
逃げて‥
僕は漸く聞き取れるくらい小さな声で叫んだ。
翔君を危険な目に合わせたくない‥
「好きだよ‥」
思いの丈を吐き出すように囁かれる告白の言葉と、僕の唇に感じた熱く濡れた感触‥
それはほんの一瞬の出来事で‥なのに、僕の胸は熱く震えて‥
「しょ‥くん‥、僕も‥」
翔君が好き‥
決して告げることを許されない想いを口にしそうになる。
でもその時、再び僕達を裂くかのように、扉が叩かれた。
「もう行って‥」
僕を抱きしめる腕を一向に解く気配のない翔君の胸を押す。
「智‥。必ず君をここから救い出すから‥。だから‥、それまで待ってておくれ‥」
力強い声でそう言うと、僕の額に唇を押し当て、僕の背中に回した腕を解いた。
待ってる‥
部屋を出て行く背中にそう告げたかった。
でも言えなかった。
だって僕は‥
君の家を‥家族を経滅させるために、自らの意思でここに囚われているんだから‥
そのために、あの心優しい雅紀さんを利用して、兄妹同然に育って来た和也を使って‥、漸くここに辿り着いたんだから‥
だからごめんね、翔君‥
僕には君に好きだなんて言って貰える資格がないんだ。
ごめん‥