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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


智side


ずっと会いたかった。

会いたくて会いたくて‥
でも部屋から出ることすら禁じられた僕には翔君に会いに行く術なんてなくて、僕は壁を叩く音が止む度に、心の中で君の名前を呼んでいた。

なのに、その翔君が今、僕の目の前にいて、僕をその温かい腕で抱きしめている。

それだけでも僕は天にも昇る想いなのに‥

なのに、僕のことが好きだなんて‥


嬉しい‥

だって僕も翔君のことが‥好きだから‥

でも、でも‥!

僕はこんなにも穢い‥

真っ白な翔君の手を、僕の闇の色で染めるなんて、僕には出来ない‥


僕は乱暴に首を振って、何とか翔君の腕から逃れようと身を翻した。

その時、素肌の上に無造作にかけただけの襦袢が肩から滑り落ち、

「待って、さとしっ‥」

咄嗟に僕の腕を掴んだ翔君の目が、僕の身体のあちこちに残された情事の痕跡に釘付けになる。


いや‥
そんな目で僕を見ないで‥


「見ないで‥っ、僕を‥見ない、で‥」


翔君には‥翔君にだけは、こんな僕を‥穢れた僕を知られたくない‥


両手で自分の身体を強く抱き締めた。

こんな細い腕じゃ、無数に散らばる痕跡は隠せやしないのに‥


お終いだ‥
翔君は僕を軽蔑したに違いない。

でもこれで良かったのかもしれない。

翔君を‥
大好きな人を闇の色に染めなくて済むのだから‥

これで良かったんだ‥


自棄になりかけた僕を、翔君の腕が抱き竦める。

そして、

「知ってるっ‥全部知ってるんだ。それでもおれ、智のことが好きなんだっ」

翔君の腕を穢したくなくて藻掻く僕の耳元に、言い聞かせるように、苦し気な声で囁きかける。

「だからっ‥君をここから連れ出してしまいたいんだっ」

僕を抱く腕に力が籠められる。

痛いくらいに‥

その腕の中で、僕は全身の力が一気に抜け落ちて行くのを感じていた。


知って‥る‥?

翔君は、全部知ってる‥?


「‥知ってた‥?僕が潤と何をしてるか‥」


知ってたって言うの‥?


翔君にだけは知られたくなかったのに‥


胸の奥に、諦めとも違う、何か覚悟のような感情が去来した。
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