愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
少し身体を離していた智が身を翻そうとした弾みに、緩く合わせていた襦袢の肩が肌蹴て、白い肌が剥き出しになる。
「待って、さとしっ‥」
慌てたおれがその細い腕を引くと、肩から落ちた襦袢の下には白い肌に点々と赤い痕が見えた。
それは紛れもない情交の痕‥
目眩がしそうなほどの艶めかしい痕だった。
思わず動きを止めたおれの視線に気がついた智は
「見ないで‥っ、僕を‥見ない、で‥」
身体を隠すように自分を抱きしめて‥
それでもおれはその上から腕ごと壊れそうな身体を抱いて捉まえると、
「知ってるっ‥全部知ってるんだ。それでもおれ、智のことが好きなんだっ。」
藻掻く耳元に、苦しい胸の内を吐露してしまった。
全部知ってる‥
夜な夜な兄さんに快楽を与えられて甘い叫びを上げていることも‥苦痛に喘いでいることも。
「だからっ‥君をここから連れ出してしまいたいんだっ」
そう言ったおれの言葉に動きを止めた智の身体からは徐々に力が抜けていって‥。
「‥知ってた‥?僕が潤と何をしてるか‥」
吐き出した息と一緒に、消えそうな言葉がおれたちの間に落ちた。
そこに驚きはなくて、諦めたような‥そんな声だった。
「うん‥それでもおれ、智に逢いたくて‥智の笑ってる顔がみたくて‥。だから、ね、智‥おれの傍にいてよ。お願い‥。」
今はそれだけしか言えなかった。
限られた時間の中で伝えあえることには限りがある。
その時不意に遠慮がちに木扉を叩く音がした。
それに驚いて身体を強張らせた智がおれを振り返って、逃げてって‥小さく叫ぶ。
おれはその悲愴な瞳に‥
「好きだよ‥」
その想いも込めて小さな唇に自分のを重ねた。
好きだ‥智
一瞬触れただけの幼い口づけなのに、こんなにも胸が熱くなって‥
もっと、もっと智に触れてたいって。
だけど智が戸惑いに瞳を揺らしながらおれを見つめ返し
「しょ‥くん‥、僕も‥」
そう言いかけた時、また木扉を叩く音がした。