愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
翔side
こつこつと時計の針が刻む音だけが部屋の中に響く。
固いその音が重なるほどに焦れる気持ちは増していく最中、小さく木扉を叩く音がして、おれは長椅子から飛び起きる。
きた‥!
そのまま木扉まで駆け寄り取手を引くと、息を切らせた和也が握りしめていた片手をおれの目の前で開いてみせた。
「さ、急いで下さい。澤さんが風呂から上がるまでに、鍵を元の場所に返しておかないと‥」
おれを急かす和也の目は潤んでいて‥
「ありがとう、和也。」
それを受け取ったおれは隣の兄さんの部屋の前まで行き、鍵穴に細長い鍵を入れてゆっくり回す。
するとかちりという音がして、木扉の取手が動いた。
開いた‥!
ようやく開けることのできたその扉をそっと開けて真っ先に寝台の方を見る。
「さとし‥智‥!」
その上で膝を抱えて顔をうずめていた智がいて、おれの呼ぶ声にその顔を上げると、
「‥翔、君‥‥?」
そう小さく呟き、信じられないといった表情(かお)でおれを見つめ返した。
逢えた‥やっと逢えたんだ!
おれは真っ直ぐに逢いたくて堪らなかった智の元に駆け寄ると、驚きのあまり動けなくなっていた身体をぎゅっと抱きしめた。
すると凍りついていた身体がふわりと解け
「しょぉくん‥、あいたかった‥」
抱きしめた腕の中で零れ落ちた言葉は震えていて‥透明な雫がしみ込むようにおれの胸の中に吸い込まれていった。
「遅くなって、ごめんね‥逢いに来れなくてごめん‥。」
吐息を震わせる智を抱きしめた腕を解くことなんてできなくて、襟元近くでそう詫びた。
すると智は小さく首を振って
「そんなのいい‥翔君に会えたから、いいのっ‥」
涙声で‥切なくなるような喜びを滲ませた声で許してくれるって言ってくれる。
もっと抱きしめていたい‥
そう思いながらも、逢うことの許された時間はほんの僅かなんだって思い直して、ゆっくりと腕を緩めると、涙で濡れている頬にそっと手を当てた。
「おれも智に逢いたかった‥。逢いたくて堪らなかった。」
白い壁を叩くだけでは伝えきれない想いは溢れるほどあった。
今なら言える‥
こうして触れることのできた今なら‥
胸の中に抱えてた想いを智に伝えることができるんだって喜びに、胸が苦しくなるほど熱くなった。