愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
和也side
玄関先が俄に騒がしくなる。
俺は草履履きの足音を鳴らして小走りで玄関へと向かう澤さんを呼び止めた。
「こんな時分にどなたかお出かけですか?」
「ああ、潤坊ちゃんがね‥。どうもご学友の生田様に会食のお誘いを受けたらしくてね‥」
潤坊ちゃんが会食に‥?
ということは、
「お帰りは遅く‥?」
きっとお酒も召し上がるだろうから、日付けを跨ぐ可能性が高い。
だとしたら‥
もしかしたらこれは絶好の機会なのかもしれない。
急いで翔坊ちゃんにお知らせしなければ‥
俺は玄関に向けた足を今来た方向に向けた。
すると翔坊ちゃんが階段を駆け降りて来るのが見えて、俺達は顔を見合わせ、軽く頷き合うと階段を駆け上がった。
考えていることは同じだ、ってことはその様子からすぐに分かった。
翔坊ちゃんの部屋へと入ると、俺達はお互いの顔を突き合わせた。
俺が澤さんから鍵を奪えるとしたら、風呂に入っている時間か、澤さんが完全に寝入る深夜しかない。
でも深夜だと、潤坊ちゃんがお戻りになる可能性が高くなる。
その前になんとかしなくては‥
俺は自分の立てた計画を翔坊ちゃんに打ち明けた。
「わかった。危ないことはして欲しくないけど、何とか鍵を‥、智に逢えるように‥お願いするね」
俺の手を取り、自分の額に押し当てた坊ちゃんの顔には、それまで塞いだような、暗さは感じられなくて、それどころか生気に満ちているような気がする。
何とかして坊ちゃんを智さんに逢わせて差し上げたい。
俺は坊ちゃんに背中を押されるようにして部屋を出ると、僅かに震える足で階段を駆け下りた。
坊ちゃんの前では、なるべく坊ちゃんを心配させないようにと気丈に振る舞っていたけど、いざとなるとやっぱり緊張してしまう。
こんなんじゃ駄目だ。
落ち着け、俺には雅紀さんが付いていてくれる。
俺は自分を鼓舞するように、硬く握った拳で胸を一つ叩いた。