愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
「兎に角‥潤坊ちゃんが夜にお出掛けになる時は、澤さんはお戻りの時間までに風呂を済ませてしまうから、その時が狙い目だと思うんです。」
最初からそのつもりだったのか、目を輝かせた和也は何の迷いも無くそう言う。
今日逢えるかもしれない‥
和也の確信に満ちた声に、沈み込んでいた気持ちが一気に元気を取り戻す。
おれは懸命に鍵を手に入れようとしてくれる彼の両手を握ると、
「わかった。危ないことはして欲しくないけど、何とか鍵を‥、智に逢えるように‥お願いするね。」
その手を自分の額に押し当てた。
すると慌てた和也は
「ぼ、坊ちゃん、止めてください、そんな風にされると困ってしまいます。ね、一緒に智さんを助けましょう?」
そう言っておれの顔を覗き込むと、ね?って小首を傾げた。
その表情は優しくって、ほんの少し使命感を感じてるような強いもので‥おれなんかよりうんと大人びたものに見えた。
和也‥なんだかまた雰囲気が変わったような気がするな。
雅紀さんがいるから強くなった‥?
好きな人に支えられるって、こんなにも勇気が貰えるものなのか。
兄のような雅紀さんの懐で温められる毎に、優しく‥強くなっていく和也を目の当たりににして、自分も智にとってそんな存在になりたいって思った。
「よかった‥和也が味方になってくれて、本当によかった。ひと目でも逢えたら充分だから、無理はしないでね。」
「はい、私も同じことです‥坊ちゃんが智さんのことそこまで想って下さってるのなら百人力です。一人だったら、とてもじゃないけどできやしません。」
そう笑いかけてくれた彼に頷きを返して‥
「もう行って。今日はおれのことは構わないでいいから、澤を見張ってて?」
自分よりも小さな背中に手を当てて軽く押すと、ぺこりと頭を下げた和也は踵を返して部屋を出ていった。
どうか上手くいきますように‥
おれはその後ろ姿に手を合わせたいくらいの気持ちだった。
夕食の時間まであと少しある。
ぎゅっと目を閉じると、さっき見た光景が目蓋に蘇って、ぞくりと背筋が寒くなった。
いくらなんでも智があのままの姿だってことはないよね‥。
‥手当てぐらいはしてもらってるはずだよね。
まさかそれを澤に聞くわけにもいかないし‥。
どうか‥
どうか‥智に逢えますように