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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


翔side


何とか兄さんの部屋の鍵を手に入れようとする和也を側で見ていることしかできない無力な俺‥。

でもさっきの智の姿を見たら、とてもひと月近く先の誕生日を祝う会までなんて待てないって気持ちが焦るばかりだった。


もうすぐ年の瀬‥学校も休みになるし、昼間兄さんがいないうちに逢いにいく方法は無いかな‥。

白い壁相手に考えを巡らせていると、窓の外から馬車が屋敷の前に止まる音がした。


こんな時間から誰が出掛けるんだろう‥?


休日の、しかもじきに夕食の時間だっていう遅い時間に父様が外出されることは滅多にない。


だとしたら兄さんかもしれない‥!


おれが窓枠の端から下を覗き込んで、誰が馬車に乗り込むのか目を凝らしていると、玄関から使用人がぱらぱらと出てきて、その後から黒い外套を着て手に帽子を持った兄さんの姿が見えた。


出掛けるのは兄さんだ!


しかもこの時間から出掛けるとなると、酒宴になるから帰りは遅いことが多い。

どうにかして和也が鍵を手に入れることができれば、智に逢うことができるかもしれない。

やがて馬の嘶く声に続いて、ゆっくりと馬車が動き出したのを目で追うと、おれは素早く部屋を出て和也を呼ぼうと階段を駆け下りた。


すると和也も同じことを思ったのか、廊下の奥から早足で歩いて来るのが見えて、お互い頷きあったおれたちは、そのまま部屋に引返す。

「今、出掛けてったのって兄さんだよね⁈何処へ行ったの?帰りは遅い?」

部屋の木扉を閉めたかと思うと、後に続いて入ってきた和也の腕を掴んで矢継ぎ早に問いを重ねた。


そんな彼も絶好の機会だと思ったのか、

「急に潤坊ちゃんのご学友の方から会食のお誘いがあったらしく、お出掛けになったそうなんです。なんでも生田様っていうお方だそうなんですが‥。それでお帰りは何時になるか分からないって澤さんが話してるのを聞いて‥。」

少し息を切らしながら早口で教えてくれた。

「生田さんが‥?」


こんな休日の夜に‥珍しいな‥


生田さんといえば、雅紀さんと同様に兄さんの親しい友人だし、一緒に食事をしようと言う話になってもおかしくはないんだけど、こんなに急な誘いは珍しかった。



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