愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
智side
玩具だと‥
慾を満たし、憂さを晴らすための道具だと‥
その言葉が胸に深く突き刺さった。
恨むべきは、自らの身体だと‥
陵辱される痛みよりも何よりも、潤の口から吐き出された僕を侮辱するような言葉が、口惜しくて仕方なかった。
なのに、抗えない身体は自らの欲求を満たすために疼き、拒絶する唇は絶え間なく喘ぎを漏らし‥
潤が僕の中に精を放った瞬間、僕は全ての意識を手放した。
誰かの手が僕に触れた気がして、僕は重い瞼を無理矢理持ち上げた。
「気が付いたかい?」
なんだ‥澤さんか‥
僕はうつ伏せた身体はそのままに、首だけを動かした。
「今日は随分と酷くされたようだね‥」
温かく濡れた手拭いが僕の背中を撫でて行く。
それがとても心地よくて‥
「あり‥がと‥ぅ‥」
引き攣れたような痛みを喉の奥に感じながらも、僕は声を絞り出した。
「おやまあ、珍しい。今まで礼なんて言ったこともない子が…」
澤は一通り僕の身体を清めると、拘束を解かれた手首を、油の抜けきった乾いた手で撫でた。
「痛むかい?」
「慣れてるから‥。それにさっきは僕が悪かったんだ。ただでさえ虫の居所が悪かったのに、怒らせてしまったから…」
痛むのは手首なんかじゃない‥
無理矢理開かれた身体でもない‥
憂さを晴らすための道具として扱われたことに、僕の胸が酷く痛んだ。
「多分遅くまでお戻りにはならないと思うから、少しゆっくりするといいよ。そうだ、腹は減ってないかい?なんならお粥でもこさえて来ようか?」
澤の優しい言葉に、僕は首を横に振った。
「困ったねぇ‥。何か食べたい物はないのかい?」
食べたい物なんて‥何もない。
でももしあるとしたら‥
「キャンディー‥食べたいな‥」
口に入れたら、荒んだ心まで一瞬で溶かしてしまうような、甘くて幸せな味のするキャンディー。
あの時、屋根裏部屋で翔君に貰ったあのキャンディーの味が、僕はずっと忘れられずにいた。