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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備


翔side

おれ一人ではどうしていいかわからなかった。

だけど和也がいてくれて、雅紀さんが自分を見失いそうになるおれを奮い立たせてくれて‥誰にとっても大切な存在である智を助け出さなきゃって思いが強くなった。

兄さんは絶対的な存在。

その手の中から智を連れて出るのは簡単なことじゃない。

雅紀さんの言う通り、誰が咎められ‥重い罰を受けることになるんだと思う。

でも和也や雅紀さんまで巻き込む訳にはいかない。


「おれが智を連れて逃げます。罰も‥おれ一人で‥」

「それはしてはいけない。気持ちはわかるが危険が大きすぎる。」

雅紀さんは首を振り、想いだけで先走ってしまうおれの言葉を遮る。

だって‥智のことが好きだから‥

智のことを本気で愛していたって言った雅紀さんにも負けないくらい‥。

だから‥


唇を噛んで食い下がろうとするおれをじっと見つめた年長者は、ふっと表情を緩め‥

「君たちは若い。滾る情熱に身を任せてしまいたい気持ちは私も経験したからね。その気持ちは分かるが‥。」

そう言って言葉を切り、和也の肩を抱くと

「愛する者を守るのは私の信念なのだ。勝手な振る舞いは許さないよ。」

おれの見ている目の前で一瞬にして唇を奪ってしまう。

驚きに目を見開いたままだった和也が目を閉じると、目尻から涙が頬を伝った。


そうしてゆっくりと唇を離した雅紀さんは、今度はおれを見つめて

「智をその手に抱きたいと思うなら、辛いことも受け入れ待つことも強さなのだよ。情熱に任せて突き進むより、堪え忍ぶことの方が何倍も苦しい。だがそうして得られた幸せにこそ価値があるとは思わないかい?」

どこまでも毅然とした態度を保ちつつ、優しさを滲ませた声でそう諭した。

この人はどこまでも大人なんだ‥。

おれなんて足元にも及ばないほど大人で‥少し悔しいけど、愛することの意味をよく知っている人なんだ。

おれも智を守るって心に決めたんだから、強くならなきゃ‥


「雅紀さん、すいませんでした。おれ‥気持ちばかりが焦ってて‥。しっかりしなきゃいけないのに、目の前のことにばかり心を奪われて‥。」

「それが若さというものだ。決して悪いものではない。」

「おれ‥強くなりたい。智を受け止められるくらいの強い大人になりたい。」

でなきゃ君を助け出したとしても、守っていけない。


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