愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
雅紀side
智の声が聞こえた‥か。
翔君は、それがどういったものなのかは言わなかったものの、その歯切れの悪さを考えると大方の予想はできた。
だとすると、私が智に会いたいと訪ねたりすれば、拗らせてしまうだけかもしれない。
「何か良い手立てはないものか‥」
考えあぐねていると、翔君が思い出したように、自分の為に催される会を利用してはどうかと言い出した。
「その日は親類縁者を招いての誕生日会が開かれる予定なんです。その時ならもしかして‥」
藁にもすがる思いなのだろう。
「なるほど‥。例年、沢山の招待客が招かれている会だから、私がいても不自然でな無さそうだね。」
「はい。おれが主宰になるから、兄さんも招待客のことに文句は言わないとは思うんです。その日なら兄さんも大広間にいる筈だから‥。」
翔君は考え、言葉を選びながらそう話す。
「じゃあその間に私が智さんを連れ出せば‥。その後は‥?」
隣で少し不安そうな表情を浮かべた和也は、私と翔君の顔を見比べながら先の心配を口にした。
上手く連れ出したとして‥
智の姿が居なくなったと分かれば、誰が真っ先に疑われるだろうか。
「松本の部屋の鍵を持っているのは澤だと言っていたね。」
「はい‥多分、ずっと智さんのお世話をしていたのは澤さんです。」
「ならば部屋の鍵が開けられたと分かれば、問いつめられるのは澤だろうし‥気の毒だが、しばらくは堪えてもらうより仕方ないだろう。だが、それだけで済むとは思えない。」
鍵まで掛けて智を閉じ込めていたとするならば‥探し出そうとするに違いない。
腕を組んで考え込んでいる私を、2人は固唾を飲んで見つめている。
「それだけでは済まないって‥」
兄の気性をわかっている翔君は、また青ざめた顔になる。
「恐らく手引きした人間を探し出すか‥真っ先に私を疑うのかもしれないね。」
そのひと言に今度は和也が青ざめて
「雅紀さんが疑われるなんて、あっちゃいけないっ‥おれが、おれが智さんを連れて逃げますっ。」
私の袖にしがみつき、必死に訴えた。
「大丈夫だよ‥私は。和也を危ない目に遭わせるなんてことはできないし、無論、翔君もだ。」
年長者である私が‥腹心の友であった私が、彼を諌めなければならないと、そう心に決めていた。