愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
顔を青くする坊ちゃんを宥めすかし、なんとか落ち着かせると、雅紀さんが長い腕を組んで小さく唸った。
「松本の性格上、それ程智に執着するとも思えないが‥。もし仮に翔君の聞いた、その声がそうだったとしたら…余程乱暴な真似はするまい。それに声が聞こえるのであれば、智はもしかして自由の身になっている、とは考えられないかい?」
そうか、雅紀さんは潤坊ちゃんとは幼馴染。
だから潤坊ちゃんの性格だって、翔坊ちゃんと同じくらいに熟知している筈。
その雅紀さんが言うんだから、確かにそうかもしれない。
でも、それを確かめる術がない。
「やっぱり何とかして鍵を手に入れないと‥」
ぽつり呟いた俺の一言に、翔坊ちゃんが大きく頷く。
「鍵さえ手に入れれば、智に会うことも出来るし‥」
「そうだね、先ずは智の安否を確認することが先決かもしれないね。だがその後は?私が直接松本の屋敷に乗り込めればいいのだが、何分松本とは断交状態でね‥」
情けないことだが、と雅紀さんが自嘲気味に笑う。
まさかこんなことになるなんて、雅紀さん自身想像もしていなかったんだと、その表情をみれば分かる。
自ら手を離してしまったとは言え、心中はきっと穏やかじゃない筈だ。
愛こそ失せたとはいえ、まだ雅紀さんの心の片隅には智さんがいるから‥
「何か良い手立てはないものか‥」
胸の前で腕を組んだまま、雅紀さんが天を仰ぐ。
「それなら俺に考えが‥」
その一言に、俺も雅紀さんも視線を翔坊ちゃんへと向けた。
「その考えとは‥?」
それまで組んでいた腕を解き、雅紀さんが身を乗り出した。
「実は、来月おれの誕生日なんです」
「確か‥、私の記憶が正しければ、二十五日だったかな?」
「ええ、そうです。その日は親類縁者を招いての誕生日会が開かれる予定なんです。その時ならもしかして‥」
松本家程の家柄なら、おそらく盛大な会が開かれるんだろうけど‥
でもそこに、招かざる客である雅紀さんが、どうやって‥?
まさか雅紀さんの身が危険に晒されるなんてことは‥
そんなことになったら俺‥