愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
「雅紀さん、おれに力を貸して下さい」
翔坊ちゃんが雅紀さんに雅紀さんに向かって、畳に額を擦り付けるようにして頭を下げた。
「俺からもお願いします」
俺達が頼れるのは、雅紀さん以外にはいない。
藁をも縋る思いで俺達は頭を下げ続けた。
「やれやれ‥、二人共頭を上げなさい。いいかい、私がいつ力を貸さないと言った?この私がかつて本気で愛した子だ。あの子を救ってやりたいと思う気持ちは君達と同じだ」
かつて愛した子‥
その言葉に胸がちくりと痛む。
でもそれはもう過去のこと。
今雅紀さんの愛は俺に向けられている。
俺を見る雅紀さんの眼差しを見れば分かる。
「ではお力添えを‥?」
顔を上げた翔坊ちゃんに、まるで春の木漏れ日のような温かな笑顔で頷く。
「ありがとうございます‥。ありがとう‥」
一度は止まった筈の涙が、再び翔坊ちゃんの頬を濡らした。
そんな翔坊ちゃんの姿を見ていると、俺まで胸が熱くなる思いだった。
でも俺達に泣いてる暇なんてない‥
「坊ちゃん、智さんが今どういう状況なのか、もう一度詳しく話してくれませんか?」
俺は翔坊ちゃんの顔を覗き込んだ。
「確か、屋根裏部屋にいて、足を鎖で繋がれている、って言ってましたよね?」
俺の問いかけに、坊ちゃんが鼻を啜りながら、うんうんと頷いて返す。
「それで、その屋根裏部屋には潤坊ちゃんの部屋からしか行けないとも‥」
「うん。確かにそうなんだけども、それがここ数日おかしいんだ」
「おかしい‥とは?」
俺も、そして雅紀さんも、何度も首を捻っては、考え込む様子の坊ちゃんを覗き込んだ。
「鎖の音がしないんだ。前はあんなにしていた音なのに‥。それに、壁伝いに聞こえて来る音が、とても近いような気がして‥」
気のせいかもしれないけど‥、と付けたしてから、坊ちゃんは一つ大きな溜息を落とし、肩を下げた。
でもすぐに顔を上げると、
「それから、聞こえたんだ…、智の…その…なんて言うか…、苦しいのとは違うんだけど…声が…。ねぇ、兄さんは智に酷いことしてるの? もしそうなら、おれ…」
切羽詰まったような表情(かお)で俺の襟元を掴んだ。
「落ち着くんだ、翔君」
その肩を、雅紀さんの一回り大きな手が掴んだ。