愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
翔side
おれの父様が‥‥人を、殺めた‥
智の‥親を‥‥‥
‥‥そんな‥、そんなこと‥あるはずない‥
「うそ‥‥うそ、だ‥、父様が‥‥」
身体中の血が凍り、闇の底に引き摺り込まれていく‥
智の親を殺め‥家を、奪った‥
「‥智を‥、智の親を‥‥っ、なんでっ」
何をしたっていうの‥⁈
智が‥智の双親が、一体何をしたっていうんだ!
あんなに‥優しげな表情(かお)をしていた‥
花が咲くように微笑んでいた‥‥
その智の大切な人を‥おれの父様が‥‥
「‥翔君、気を確かに持つんだ‥。」
そう肩に掛けられた手が、混乱した中にいたおれを呼び戻す。
「雅紀、さん‥何で、そんなこと‥!父様は、何で智の親を⁈」
おれは誰に答えを求めればいいのか、何に救いを求めればいいのかも分からずに、ただ目の前にいる人に縋り付いた。
大きな肩に顔をうずめた和也を片腕に抱いて、苦しげに眉根を寄せた兄のようなその人は、激情の中にいるおれを連れ戻そうとしてるかのようだった。
「落ち着くんだ‥翔君。辛いだろうが、過去は変えられない‥。」
「でもっ、父様のせいで‥っ‥」
降って湧いた悲しみと激しい混乱の中で、自分が何を口走っているのかも、よくわからない。
それを見た雅紀さんは深い眼差しでおれを見つめ
「だが、例えそれが本当だったとしても‥君に罪は無い。それは智だってわかっていたと思うがね。あの子は道理の分からない子では無い。」
そう諭すように語りかける。
「じゃあ‥智は全てを知った上で‥兄さんのところに?」
なんで‥親の仇の住む屋敷になんかに‥
兄さんのところになんか行ったりしたの‥?
そして‥おれに笑いかけてくれたりしたの?
「その答えは智にしかわからないよ。翔君はそれを聞く勇気はあるかい‥?」
おれの腕を雅紀さんの手がしっかりと掴み、顔を上げろ‥前を見るんだと言っているかのようだ。
智に‥何て言えばいいの‥?
自分の双親を殺めた仇の息子であるおれが‥掛けられる言葉なんてあるの?
でも‥
「知りたい‥何であんな思いをしてまで、兄さんのところにいるのか‥、」
憎くて堪らないはずなのに‥
兄さんのことも‥おれのことも‥