愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
雅紀side
智が親を亡くした子だというのは父上から聞いて知っていた。
恐らく父上は、哀れだった智を連れ帰りたいと我が儘を言った私の願いを聞き入れつつも、何かしらの事情を知っていたのかもしれなかった。
だから何も言わず智を傍に置くことを許していたのか‥。
和也が懸命に語る悲しい過去の事実を聞き‥全て合点がいった。
当時の私は今の翔君と同じ年齢だったのだから、誤魔化すことは容易かった筈。
そして誰もが目を背けたくなるような辛い話は、滅多に口の端に登ることは無い。
私がその事実を知らなくても当然だったのかもしれない。
親を亡くしたのでは無く‥殺されてしまった智。
親を奪われ‥住む家を追われ彷徨っていたのか。
私でさえ初めて知った悲しい真実に怒り、身体を震わせている翔君は、口籠ってしまった和也の肩を強く揺すった。
「ねぇ、教えてよ和也。一体誰なの?おれ達が知っている相手なの?」
その悲痛な様は、翔君がただ智を助けたいだけでなく、それ以上の想いを抱いている‥そう感じさせるものだった。
和也もそれを分かっているのか、辛そうな表情を浮かべ、私の手を握るそれは震えていた。
それでも心を決めたように顔をあげると
「それは‥松本家の旦那様‥、つまり翔坊ちゃんのお父様でございます‥」
そう‥悲しくも辛い真実を口にした。
松本の父上が‥智の親を‥
「そん‥な‥‥」
それを知ってしまった翔君はその場に崩れ落ち、声にならない叫びを上げた。
大切な者の命を奪った者と奪われた者‥。
想う相手が決して相容れない者同士だと知り、苦しみもがく姿に、私は言葉を失った。
そして和也もそれを知りながら松本の家に仕え‥仇の子であるにも関わらず、翔君の傍に‥
この歳若い者たちが何故‥こんなにも過酷な運命の元に出会ってしまったのだろう。
なんの罪も無い無垢な者たちが背負ってしまった苦しみを思うと、大人の私でさえ堪え難い胸の痛みを感じた。
「和也‥よく話してくれたね。辛かっただろうに‥。」
私は己れが罪を犯したかのように項垂れる愛する者を片腕に抱き寄せ、親の犯した罪の重さに打ちひしがれた慈しむべき者を抱き起こした。