愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
翌日、学校から帰ると雅紀さんからもう一日だけ和也を預かりたいと知らせが届いていた。
それ自体は多少の不自由と寂しさを我慢すれば構わないんだけど。
たまにしか会えない恋人と会えたんだから‥あの様子だと雅紀さんが離さなかったんだろうな。
まるで宝物みたいに、すごく大事そうに和也のこと抱きしめてたし。
和也だって‥
そういえば、雅紀さんは自分の元を去った智の行方を詳しくは知らない風で、和也に尋ねてたっけ‥。
そしてそれを聞かれた和也も様子がおかしかった。
なんでだろ‥。
別に和也が智の存在を隠す必要なんてない筈なのに、泣くほど動揺するなんて。
でも雅紀さんのお父様が、両親を亡くして身寄りの無い智を引き取って育ててたってことだったら、雅紀さんとは兄弟みたいなものだし、心配といえば心配だったのかな。
だったら尚のこと智を助けるのに力を貸してくれるに違いないよね。
おれはひとりの寂しさを紛らわせるように漆喰の壁の前に立つと、いつものようにそこを叩いた。
唯一、おれが智と持てる関わり。
しばらくすると智の返事が返ってくる。
ああ‥無事だったんだね‥。
会いたいよ‥君を抱きしめたい。
そう想いを込めて、また壁を叩く。
智はどんな想いで返事をくれているのかな‥
おれに会いたいって‥思ってくれてる?
好きだって言ってくれなくてもいいから、せめて会いたいと思っていて欲しい。
もしかしたら幾度となく兄さんと情を交わして、心まで奪われてしまったかもしれない。
だけどおれは智のことが忘れられない。
だからお願い‥おれに会いたいって‥
そして会うことができたなら、花のような微笑みを見せて。
耳を擽ぐるような優しい声を聞かせて。
何も言わずにその身体を‥抱きしめさせて‥
おれは伝えたい想いを拳に込めて、何度も壁を叩いた。