愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
和也side
夕方までぐっすり眠ってしまったせいか、夜床に入っても中々寝付けず‥
隣ですやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる雅紀さんを起こさないよう、そっと寝台から抜け出ると、以前雅紀さんが見せてくれた地球儀を指でくるりと回した。
でも思いがけず大きな音が出てしまって、慌てて寝台で眠る雅紀さんに視線を向けた。
良かった‥、寝てる‥
ほっと胸を撫で下ろし、再び視線を地球儀へと戻した。
僅かに差し込む月明かりを頼りに、そこに書かれた文字を読んでいく。
「亜米‥利加‥、欧‥羅巴‥?英吉利に阿‥蘭陀‥」
「で、私たちがいるのが、ここ大日本だ」
背後から手が伸びてきて、地球儀に描かれた小さな島国を指で差した。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「いや、私も中々寝付けなくてね‥」
噓ばっかり‥
さっきまであんなに気持ちよさそうに寝息を立てていたのに‥
俺に気を遣わせないために‥
その優しさについ甘えてしまう。
俺は背中に感じた雅紀さんの体温に頭を凭せ掛けた。
「雅紀さんはお仕事で外国に行ったことがあるんでしょ?いいな、俺も行ってみたいな‥」
指の先で地球儀をからから回しながら、到底敵いそうもない夢を口にする。
すると背中から回された手が俺の顎先に添えられ、少しだけ上向かせられると、そこに雅紀さんの唇が重ねられた。
「いつ‥と言う約束は出来ないが、私が渡航する際は、和也‥君も一緒だ」
「雅紀さん‥」
例えそれが叶わない夢だとしても‥夢だけで終わってしまったとしても、その言葉だけで俺は‥
「嬉しい‥」
俺は両手を雅紀さんの首に巻き付けると、その温かな胸に顔を埋めた。
「さあ、もう休もう。こんな薄着でいたら風邪をひいてしまう。君に風邪などひかせたら、私が翔君に𠮟られてしまうからね」
「はい‥」
頷いた俺を、雅紀さんの腕が抱き上げ、そのまま寝台まで運ばれると、そっとそこに下される。
「和也が眠るまで、ずっとこうしていて上げるから、もう休みなさい」
首の下に腕が差し込まれ、胸の中にすっぽりと収められる。
あったかい‥
ぴたりと寄せた雅紀さんの胸から伝わってくる鼓動を感じながら、俺は瞼を閉じた。
見たこともない、外国の地に思いを馳せながら‥