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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第9章 愛及屋烏


翔side


雅紀さんに言われるまま和也を置いて屋敷に戻った俺は、澤にその事を咎めないようにと含めた。


夕食もそこそこに部屋に戻ると、着替えもせずに寝台の上に身体を投げ出す。

さっき雅紀さんから聞いた話が、どうしても頭から離れない。


『智は私が大切に守っていた子なのだよ。』


穏やかで微笑みを絶やさない雅紀さんが、沈痛な面持ちでそう打ち明けてくれた。

そして智が自ら兄さんの元に行ってしまったとも。

侯爵家の跡継ぎだった智が雅紀さんの元で過ごし、兄さんのところへ‥


‥なんで‥‥?

なんであんなに優しい人に守られていたのに、庇護の翼の下から出てしまうような真似をしたんだろう。

わからないことだらけだった。


「智‥君は兄さんを愛さなければならないんだって‥そう言ったよね。どういう意味だったの‥?」

いくら問い掛けても返事の返ってこない白い壁に向かって呟く。

直接会って聞きたいことはたくさんあったけど、固く閉ざされた木扉を前に為す術もなかった。

何とかしてあの木扉の鍵を手に入れなきゃ‥じっとしててはいつまでたっても智に会うことはできない。


和也が戻ってきたら澤の持っているそれを手に入れる方法を考えなきゃな‥。



近頃は鎖を引き摺る音も、ごそごそと床を這う音もしないから、多分智は兄さんの部屋にいるんだろうなと思っている。

一日中その部屋で、その帰りを待っている智。


夜になれば2人きりで、おれなんかより逞しい腕に抱かれ、快楽を与えられて‥甘く切ない声を上げている。

壁越しに夜ごと濡れた声が洩れ聞こえてくる度に、自分の身体も熱くなっていって、一緒に昇りつめてしまうこともあった。

そんなことをしてしまった自分が許せなくて‥でも会いたくて。

気が付いてしまった想いが熱く身体を巡って、知らなかった感情に火を灯した。


‥情慾‥‥そして嫉妬。


おれを変えてしまった智の存在は、日に日に大きくなっていった。

智を助けてあげなきゃって純粋に思っていた頃とは、明らかに変わってしまった気持ち。


純粋だった中に芽生えてしまった慾。


おれは初めて知った生々しい感情をどうしていいのかわからなかった。
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