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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第9章 愛及屋烏



和也は私の言っていることが飲み込めていないのか、ぽかんとした表情(かお)で見つめ返すばかりで‥。


ようやく口を開いたかと思ったら、

「おれ、夢の続きでも見てるんでしょうか‥。」

とぼんやりと呟く。

「そんなに驚くほどのことでもあるまい。私は多少我が儘かも知れないが、そこまで無責任な男ではないつもりだが‥。」

「はぁ‥、‥へっ?いや、そうではなくて‥!お、おれみたいのが書生だなんて、無茶です!」

そのままぼんやりと相槌を打った和也は、我に返ったように慌てふためいて後ずさった。


「くくっ、落ち着くんだ和也。何も明日からどうこうという訳では無いのだから‥ただ、それまでは不安なこともあるかもしれないが、どうか私を信じてくれるね?」

逃げかけた身体を捕まえて、もう一度念を押す。

するとようやく首を縦に振ってくれた恋人は

「‥‥は、はい‥、あのおれ、必ず智さんを助けてみせます‥、雅紀さんのことも信じてます‥!」

そう約束してくれた。


なんというか‥飾り気の無い、実に和也らしい健気な言葉だった。


「ありがとう。‥さあ、すっかり話が長くなってしまったね。冷めてしまったが残りを食べたら、少し詳しく話を聞かせてくれるかい?」

和也は私の支えで寝台の上で座り直すと、また大人しく雛鳥のように口を開けて‥それでも先ほどより明るい表情(かお)をしていた。

けれどもよほど疲れていたのか、彼は食後しばらくすると眠ってしまい‥私はその寝息を聞きながら、囚われの身となった智に思いを馳せた。


私が松本の屋敷で智と別れてから、ふた月はゆうに過ぎていた。


松本は何故、あんなに大人しい智を鎖で繋いだりしてるのだろうか‥。

逃げだそうとするからか‥?


もしそうだとするなら、屋根裏部屋などという音の漏れ易い処に囚えておくというのは合点がいかない。

そんな場所に智を置いておくのは、他に何か理由でもあるというのだろうか。


‥かつての私のように‥‥

智の持つ魔性の如き魅力に取り憑かれたのか。


それとも‥他に理由があるのだろうか‥。



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