愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
ようやく聞くことのできた、和也の揺れる思いを受け止めてあげたい。
大切な‥私の恋人なのだから‥
「よく話してくれたね‥。ずいぶんと心を悩ませていただろうと心配していたのだ。和也は心配性だからね。どうだろう、ひとつ‥私と約束を交わしてくれないかい?」
身体を離しながらも、腕の中に身体を残している恋人に微笑み掛ける。
けれど突然私に約束を交わそうと言われた和也は、少し困惑したように小首を傾げると
「約束‥ですか?おれが果たせるものでしょうか‥?」
自信が無さそげな返事をした。
また私の我が儘が出るのかと思っているのかもしれないな。
‥その通りなのだが‥‥
「ああ。果たせるとも。そんなに難しいことではないと思うのだが。」
それは単なる思いつきなどではなく、想いを通じ合ったあの日から考えていたことだった。
「それならば‥。そのお約束ってなんですか?」
だが約束の中身を聞くまでは気を抜けないと思っている和也は、息を止めて私の言葉を待つ。
「智の一件が落ち着いたなら‥君を私の元に呼びたいと思っている。だから、それまでは何があっても逃げ出したりはしないと約束してくれないだろうか。」
私は君に翻弄されている。
もしかしたら君が不安のあまり私に背を向けてしまう日が来るのではないか‥そう思わずにはいられなかった。
私は和也を失ってしまいそうになったら、智を救い出すことを躊躇ってしまうだろう。
だから‥和也の不安だけでなく、私自身のそれも拭い去りたかった。
今度はそう静かに告げた私が息をつめて、返事を待つ番だった。
「おれが‥雅紀さんのところに‥?」
「そうだよ。私から松本の父上に身請けを申し出ようと考えていた。ずっとこのままでは私が耐えられないからね。」
和也は信じられないといった表情(かお)で口元を押さえている。
「ほ‥本当、なんですか‥、おれ.雅紀さんのお屋敷で働ける‥、夢みたいだ‥」
「いや、そうではない。使用人としてではなく、書生として‥だ。」
そうでなければ私たちの辿り着く先に希望はない。
和也をひと時の間、情を交わすだけの者ではなく、共に手を取りあう者として迎え入れたかった。