愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
「今日はゆっくりするといい」
俺の口にご飯を運びながら、雅紀さんが申し訳なさそうに笑う。
ご飯くらい自分で食べれるのに‥
雅紀さんて、案外強引なんだから‥
「心配することはない、翔君には明日の朝迎えを寄越すように電報を打っておいたから」
「はい‥お世話かけます‥。でも、あの‥」
茶碗が膳の上に置かれ、代わりに味噌汁のお椀が俺の唇に触れる。
「どうした、何か気になることでも?」
お椀を下ろし、漬物を摘んだ箸が止まった。
俺はそれに首だけを横に振って応えると、羽織の襟元を両手で手繰り寄せた。
顔を覗き込まれて、耳が熱くなる。
だって俺‥、期待してる‥
腰がどうにかなっちまいそうなくらいに愛し合ったばかりなのに、もう次を期待してる。
こんなこと口にしたらはしたない子だ、って思われるだろうか‥
「あ、あのっ‥、その‥今夜も交合いを‥?」
口にした途端、顔に火がついて、俺は慌てて口を両手で塞いだ。
目の前で、箸に摘まれた漬物がぽろりと落ちた。
俺はなんてことを‥
「ち、違うんです、雅紀さんと交合うのが嫌とかではなくて、その‥何て言うのか‥」
ああ、こうなったら後は野となれ山となれだ!
「昨夜は無我夢中で、せっかく雅紀さんとこうなれたのに、俺全然覚えてなくて‥、だから今度はちゃんと、って思って‥」
次に会える時まで、この幸せを忘れないよう、少しでも記憶に留めておきたくて‥
「ああ、和也‥なんと健気な‥。そんな可愛らしいことを言われては、男として期待に応えてやりたいが‥でもね、和也?」
箸を膳に置いて、雅紀さんがふわりと俺を抱き締める。
「これ以上君の身体に負担をかけたくはないし、何より、私が君を手放せなくなってしまう。そうしたら智はどうなる?君達の助けを待っている智は‥」
そうだった‥
俺がこうして幸せな時間を噛み締めている間にも、あの人は冷たく寒い部屋で一人膝を抱え、泣いているに違いないのに‥
俺はなんて馬鹿なんだ‥