愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
私が脱衣場の扉を開けると、そこはすでにもぬけの殻だった。
かかり湯も済ませ湯船の中に浸かっているのか、風呂場の中からは水音ひとつしない。
素早いものだ‥。
思わず洩れてしまう笑いを嚙み殺しながら風呂場に入ると、案の定和也は湯船の中で膝を抱えて小さくなっている。
「ゆっくりと手足を伸ばして浸かればいいものを‥。」
掛かり湯をしながら俯き加減な横顔を見れば、ちらりと一瞬だけ目を合わせたかと思うと
「これで充分温まってますんで‥大丈夫、です‥」
そう言って益々湯船の奥に身体を寄せる。
するとゆらゆらと揺れる湯の中に透き通るような白い肌が艶めかしく映り、慌てて目を逸らしたものの、時すでに遅く‥身体の中心に疼きを覚えた。
仕方ない‥
そう諦めて和也の隣に身を沈め、ふわりと揺れた小柄な身体を掬い上げて、自分の膝の上に乗せると
「えっ、うわぁっ、」
と驚きの声を上げた恋人は、大きな水音を立てた。
私はその背中を後ろから抱き、耳元で静かにと囁く。
「ここは声が響いてしまうから、何があっても大きな声を出してはいけないよ?」
「あ‥、そうだった‥」
「まだ家人も起きている時間だから、驚かせてもいけないだろう。」
と大人しくなった和也を足の間に座らせると、ゆったりと背中を凭れさせる。
自分の腹や胸にぴったりと重なる白い背中。
後ろから回した片手では腰を抱くことができたけれど、もう片方の手は丸っこい手に捕まえられてしまった。
それでもこうして肌を合わせていると、身体の奥に灯った情慾の焔は確実に勢いを増して燃え上がっていく。
私が腰を抱いていた手で焦らすようにそこを撫で、少しずつ場所をずらしながら柔らかな肌を愉しんでいると、それに煽られ始めた和也は浅い息を乱す。
「雅紀さん‥ここ、風呂場なのに‥そんな風にされると変な気分になってしまいます‥」
本人にそんな気は無いのだろうが、弾みそうな息を堪えながら小声で話そうとする仕草が快感を堪えてるようにも聞こえて、なんとも艶めかしい。
「ほう‥変な気分とは、どんなものなのかい?」
そう耳の傍で囁くと、肌の感触を愉しんでいた手で内腿を撫であげ‥肝心なところには触れることをしない。
すると和也は両手で捕まえていた私の手をぎゅっと握り、そこに自分の唇を押し当てた。