愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
以前一緒に食事をした西洋料理店ならば和也も臆することは無いだろうと二人で出向き、美味しそうに料理を口へと運ぶ姿を微笑ましく眺めた。
そして腹の虫が大人しくなった恋人と屋敷へ帰り、部屋に戻った私が寝間着を手渡すと
「あの‥雅紀さんより先に行く訳にはいきませんし、ここで待っています。」
そう言って長椅子の方へ行こうとする。
けれど私はその肩を抱き、耳元に唇を寄せて‥
「何を言ってるんだい。君は私と一緒に行くんだよ?」
「えっ、風呂にですか⁈」
「そうだよ。寝間着を持って他に行く所などないだろう。さあ、」
そして思っても見なかった私の言葉に慌てる身体を抱き寄せ
「今日の和也は私に逆らうことはできない約束だろう?」
そう微笑みかける。
何故だろう‥
自分の言葉ひとつで、ころころと表情を変えていく和也が可愛くて仕方ない。
これでは好いた娘に悪戯する少年と同じではないか。
どうやら和也は完全に私の心を攫ってしまったようだ。
「そう‥でしたね‥。」
さすがに観念したような声を出した和也は、家人に見られては恥ずかしいからと、するりと腕の中から摺り抜け、扉に向かって早足で歩いていく。
「くくっ、そんなに早く私と風呂に入りたかったとは。」
開いた扉の所で立ち止まった彼は、尚も面白がる私を振り返り
「早くしないと置いていきますよ?」
と精一杯の虚勢を張ってみせたかと思ったら、本当に早足でそのまま風呂場の方へと歩いていってしまった。
「やれやれ‥どこまでも可愛い子だな。」
どうせ行き着く先は風呂場なのだからと、のんびりと歩いて、その後をついていく。
恐らく和也は、何故私が一緒に風呂に入るなどと言ったのかは分かってはいないのだろう。
本当の事を言えば、きっとまた逃げ口実を重ねてしまうに違いない。
もう逃がしはしないよ‥?
私が愛おしいと思っているのは誰なのか。
二度と忘れることの無いように、その身体に教えてやらねば‥。
私が智の名を口にしても俯いてしまうことの無いように。
臆する事なく私の隣に立っていられるように。
今宵、君を私のものにするのだよ。