愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
雅紀side
小さな胸に大きな秘密を抱えたまま過ごした日々は、どんなにか辛かっただろうと思う。
智を深く愛していたが故に離別の苦悩の中にいた時、冷え切った私の心を温め続けてくれた和也の優しさには、多くの葛藤があったに違いない。
それでも私の想いに応えようと懸命に寄り添おうとしてくれた心優しい恋人。
私は和也の口から何を聞いても、愛おしさを深めてしまうばかりで、そんなことを知らされたくらいで心変わりをしてしまうんじゃないかと心配する恋人に、胸の内で燃えるような想いを伝えたいと思った。
けれど当の和也は恋人である私に組み敷かれているというのに、顔を林檎のように赤くして、あたふたとする様に微笑(え)みが洩れてしまう。
なんと可愛らしく愛おしいんだろう。
「そういえば和也の腹の虫は、随分と大きな声を出していたね。」
「そ、それは、その‥‥夕餉の時分でしたし‥」
幼い恋人の可愛らしい逃げ口実も、中々悪くない。
「でも私に抱かれている時の声の方が、よく響いていたようだが‥?」
大人の男を翻弄する無邪気さに悪戯心が擽られた私がそう言って唇を撫でると、その時の事を思い出したのか、薄茶色の瞳を潤ませている。
そして恥ずかしさに顔を背けると、目の前に白い首筋が曝され‥
「あっ‥っ、ひゃっ‥」
口づけ、少し舌を這わせただけで、可愛らしく声を洩らした。
「くくっ、思い出したかい?」
「もうっ‥雅紀さんって、そんな意地悪するお方だったんですか?」
くすくす笑ってしまう私を潤んだ瞳で見つめ返す恋人は、今度は拗ねたような声を出す。
「くくっ、悪かった。少し悪戯が過ぎたようだ。」
私は耳まで真っ赤にしてしまった和也を抱き起こし、そっと抱きしめる。
「心配しなくていい。大切な恋人との初めての夜なのだ。そんな不作法なことはしないから安心しなさい。」
本当はこのまま愛らしく啼かせてしまいたいと思っていたけれど、抱かれる歓びを知らない身体は情慾に流されてはくれないらしい。
「ありがとう‥ございます、雅紀さん。」
腕の中で安心したような声を出した初心(うぶ)な恋人は、胸元に寄せていた顔を上げて恥ずかしそうな微笑みを浮かべていた。