愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
「済まなかったね、和也の返事も聞かず、勝手に決めてしまって‥」
翔坊ちゃんが居なくなった途端に重ねるられる唇と、きつく抱き締める腕に、俺はゆるく首を振ると、覗き込むように見つめる視線から逃れるように首筋に顔を埋めた。
あんな風に幼い子供みたいに泣いてしまったのが、今頃になって恥ずかしくなる。
「私の愛しい恋人、顔を良く見せておくれ?」
恋人‥
そう呼ばれて、俺の胸が大きく跳ね上がる。
嬉しい‥
でも俺にはまだ雅紀さんに秘密にしていることがある。
それを打ち明けるべきか否か、俺は迷っていた。
そんな僕の気持ちを察してか、雅紀さんが俺を膝の上からおろし、隣に座らせると、膝に着いた俺の両手をやんわりと包み込んだ。
「何か‥私に話したいことがあるんでは?」
決して強要するわけではない、優しい口調が俺の気持ちを軽くした。
「俺‥嘘をついていました。智さんのこと知らない、なんて俺‥」
雅紀さんの眉が、一瞬ぴくりと上がる。
「それは‥どう言う意味だい?」
「智さんと俺は、兄弟同然に育ったんです」
尤も、身分は天と地程の差があるけれど‥
「智さんは侯爵家の御子息で、俺はその家で働く使用人の子供でした」
雅紀さんは俺の話に、ただ無言で耳を傾けた。
「でもあることをきっかけに、爵位を奪われた挙句、智さんのご両親は‥」
そこまで言って声を詰まらせた俺の背中を、雅紀さんの手がそっと撫でる。
そして、
「もういい。和也の言いたいことは、大体分かったから‥」
「ごめん‥なさい‥、でも俺っ‥」
胸の奥に溜まっていた物が堰を切ったように溢れ出し、涙と一緒に零れ落ちた。
それを雅紀さんの大きな手が掬い取って行く。
「おやおや、今日の和也は泣いてばかりいるようだ。これでは私が和也を虐めているようではないか?」
「そ、そんなっ‥、悪いのは俺です。俺が嘘なんかついたから、だから‥」
いくら智さんのためとはいえ、この心優しい人を騙すような真似をしたのは、俺の罪だ。
もっと早く打ち明けていれば‥‥
後悔したって仕方の無いことだけど、それでもやり切れない思いは、どうしても拭い去ることが出来なかった。