愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第9章 愛及屋烏
和也side
雅紀さんの手を借りよう‥
そう翔坊ちゃんに提案したのは、俺‥
でもいざ雅紀さんが智さんの名を口にしたら、途端に不安が込み上げてきた。
まだ智さんのことを忘れてないんじゃないか‥
雅紀さんを自分の元に引き留めたいがために、俺が嘘をついていると疑っているんじゃないか‥
って‥
智さんは兄妹同然に育ってきた俺から見ても、とても魅力的な人だし、それに俺と違って綺麗だし‥
それは外見だけじゃなく、心も‥
怖かった‥
俺なんて、すぐに見限られてしまうんじゃないか、って‥
怖くて怖くて堪らなかった。
俺を信じて‥!
そう叫びたかった。
だから雅紀さんに抱き締められた瞬間、俺は”終わった”と思った。
これは別れの抱擁なんだ、と‥
でもそうじゃなかった。
「心配しなくていい、私が愛おしいと思うのは和也だけだ」
恋人の胸に縋って泣く俺を更に強く抱き締め、背中を撫でてくれる。
その手がいつも以上に温かくて、その温もりが伝えてくれる優しさに、俺の中に一瞬よぎった醜い感情が瞬く間に消え去った。
愛されてるんだ‥
俺は雅紀さんに愛されてる‥
智さんではなく、俺を‥
「少し考える時間をくれないかい?」
俺が落ち着いてきた頃合いを見計らって、雅紀さんがその重い口を開いた。
「決して悪いようにはしないが、松本がそこまでして智を傍に置いているのなら、簡単にはいかないだろう」
雅紀さんの言うことは尤もだった。
最初こそ俺達の手で‥そう思って意気込みはしたけど、結局は相手があの松本潤では、そう簡単太刀打ちできないと判断した結果、こうして雅紀さんを頼ったわけだから‥
それに、当の智さんだって、仮に俺たちが屋根裏から連れ出せたとして、素直に受け入れてくれるかどうか‥
雅紀さんの腕の中で悶々とした考えを巡らせていた俺は、次に雅紀さんの口から告げられた言葉に、思わず弾かれたように顔を上げた。