• テキストサイズ

愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第9章 愛及屋烏


雅紀side


まさか智が松本の部屋に囚えられているなんて、思いもよらないことだった。


私の元を去り、幸せにしているとばかり思っていたから、その行方を和也に問うようなことはしなかった。

もう私の中ではあの子と過ごした日々は過去のものとなっていたから、その身を案ずることはあっても、想いが蘇ることは無いだろう。


だが全てを知っている和也は‥そうは思わない。


私の失意の深さを慮り‥身分の違いを心配ばかりする優しい子なのだから、いつまでも私が智の名を口にすれば、未練を感じ、身を引いてしまうかもしれないと思っていた。



そして心配していた通り、智の有様を聞き動揺する私を見た愛しい人は、不安に震え‥自分の言動は真心だったんだと、心の中で叫んでいるような瞳をしていた。


「心配しなくていい、私が愛おしいと思うのは和也だけだ。」

呼び寄せた身体を抱きしめると、腕の中で私の名を呼び涙を零し、小さな手で縋るように羽織の端を握りしめていて‥

もう‥これ以上恋人に悲しい思いはさせたくないのだと、きつく胸の中にかき抱き、その心に自分の愛おしいと思う想いが沁み込むのを待った。


智の身を案じない訳が無い‥けれど和也の胸の内を思い、言葉を選びながら翔君の迅る気持ちを慮る。


純粋な瞳を向ける翔君は、恐らく全てに気がついてはいないだろう。

囚われの智を助けたいんだと必死な様子を目の当たりにし、何をどう話すべきか迷っていた。


「翔君、少し考える時間をくれないかい?決して悪いようにはしないが、松本がそこまでして智を傍に置いているのなら、簡単にはいかないだろう。」


松本が何を考え‥どういうつもりなのか。

智も‥何故本気で逃げ出そうとしないのか。

不可解なことが多過ぎる。


だが兎に角、今の私には不安に震える恋人の心を温めることの方が先決だった。

「日も暮れてしまったし、悪いが今日はここまでにしよう。帰りが遅くなって心配されてもいけないしね。ただ‥和也は私の手元に残しておいてはくれまいか。」

このまま帰す訳にはいかない。


その言葉に腕の中にいた和也は弾かれたように顔をあげ、私の申し出に彼の主人は少し驚いたような表情を見せたものの、黙って頷き、部屋を出ていった。








/ 534ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp