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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第9章 愛及屋烏



雅紀さんの言葉は当然と言えば当然だった。


だけど智を囚えているのが、その絶対的な支配力と抗えない力を持つ松本の人間‥。

「その人を閉じ込めてるのが兄さんだから‥」

だからおれたちだけではどうすることもできない。


おれは歯痒い思いに拳を握り、貴方しか頼れる人がいないんだと願いを込めて、雅紀さんの瞳を見つめた。

すると一瞬でその顔色が変わり、おれから外した視線が和也の方へ向けられる。

そして再び戻ってきた瞳には困惑の色が浮かんでいて‥


「翔くん、その人に‥会ったのかい‥?松本が閉じ込めてるという人物に‥」

その唇から洩れる声は微かに震えていた。

「はい、兄さんのいない時に部屋に忍び込んで‥2回だけ。でも鎖に繋がれてて助けてあげられなかった‥泣いてたのに、助けてあげることができなかったんです‥。」

おれは屋根裏部屋で見たままのことを、正直に話した。


鎖で繋ぐなんて酷い仕打ちを受けている人がいるのなら、正直に話せば兄さんを説得してもらえるか、連れ出した智を匿ってもらえるんじゃないかって思った。


だけど雅紀さんは、まさか‥と呟いて片手で口を覆い、隣に座っている和也を見ると徐に彼の名を呼び‥

「和也‥屋敷で智を見かけなかったと言っていたが、本当なんだね?」


‥‥え、今‥智って‥言った?


「ちょっと待って、雅紀さんっ。智って‥彼を知ってるんですか⁈」

唐突に雅紀さんの口から智の名前が出て、心臓が止まるかと思うほど驚き身を乗り出すと、こちらに視線を戻した雅紀さんは

「ああ‥知っているとも‥。よく知っているよ‥。」

と言うと、静かに目を閉じた。


何で雅紀さんが智のことを知ってるのだろうか‥?


そう聞きたいけれど、額に手を当て目を閉じてしまった年長者に声をかけるのは憚られて。

どうしたものかと隣にいる和也を振り返ってみると、彼も俯いて口を噤んでいる。

それぞれが思考を巡らせ沈黙していたのを最初に破ったのは、意外にも和也だった。


「まさか‥潤坊っちゃまの部屋の屋根裏部屋に囚われてるなんて‥分からなかったんです。雅紀さん、信じて‥おれ、知らなかったんです‥。」

両目に涙を溜めて食い入るように恋人を見つめ、声を震わせている。



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