愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
あれからすぐに償いをしたい一心で、君を屋敷から連れ出した。
冷たい風が愛おしい君を冷やしてしまわないように上等の外套を着せて、あたたかな襟巻を巻いてあげて。
「寒くはないかい?‥ああ‥転ぶといけないから、こちらにおいで。」
小石に躓きそうになる君を柔らかく引き寄せる。
「雅紀さんは本当にお優しい方‥」
すると智は私の外套の上にそっと手を添えて、溢れんばかりの微笑みをくれた。
私の心はそれだけで、春の木漏れ日の中にいるかのようにあたたかになる。
こんなにも愛おしい君を、私は失いたくはないのだ‥。
それから少し歩いて屋敷に出入りしている商店の前までくると、重い引き戸を開けてその中へと入る。
「さあ、着いたよ。欲しい色はどれだい?‥今、描いている絵を美しく彩るのは、どんな色だろう。」
店の主人が出してくれた真新しい箱の中から、智が好みそうな色をいくつも取り出していく。
「そんなにたくさん‥必要ありませんよ。いつも雅紀さんは欲張ってしまわれるから。」
少し呆れたように君が笑うと、店の主人もつられて頬を緩めた。
「雅紀さまはいつも貴方様のことを気に掛けておいでなのですよ。私どもも、決して絵の具を切らさぬようにと、きつく言われておりますから。」
白髪混じりの主人がそう言うと、
「そんな‥僕なんかのために‥。」
智は少し視線を落としてしまった。
「ああ‥そんな顔をしないでおくれ。君のためなら何だってしてあげたいんだよ。」
私が場所も憚らず口にした言葉に、弾かれたように顔を上げた君の目は驚きのあまり見開かれていて。
それはそうだろう‥。
今まではひた隠しにしてきたのだから。
それももう終わりだ‥‥。
私は驚きのあまり少し震える柔らかな頬を両の手で包みこむ。
それを見た主人は静かに店の奥に消えた。
「何も案ずることはない。君に不自由な思いはさせはしないよ。」
‥私のそばで‥私だけを見て
その柔らかな微笑みをくれるだけでいい‥
不安げに瞳を揺らした君の赤く濡れた唇に、静かに自分のそれを重ねた。