愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
啜り泣くような声が聞こえて、戻りきらない意識の糸を手繰り寄せる。
薄らと開いた瞼の端に映りこんだのは、汗と精に塗れた身体を、濡れた手拭いで清める雅紀さんの姿で・・
苦しげに歪められた顔には、幾筋もの涙の跡が残っている。
どうして・・?
どうして貴方が泣くの・・?
力の戻らない手で、濡れた頬に指の先を触れさせる。
瞬間、驚いたような・・それでいて安堵したような、複雑な表情(かお)が僕に向けられた。
「済まなかったね、君にこんな酷いことを・・」
僕の身体が抱き起こされると、軋む身体に鈍い痛みが走って、顔が苦痛に歪む。
「・・・・っ!」
「ああ、私は本当になんということを君に・・」
僕を包む両の手が、震えている。
荒ぶる感情に任せて僕を抱いたことを・・
獣のように僕を甚振ったことを・・
悔いているの?
「愚かな私を許してくれるかい?」
許す?
僕が貴方を?
許してどうするの?
だって、もう貴方は必要ないから…
「許すだなんて・・。僕が貴方を怒らせてしまったのでしょ?僕が悪い子だから・・だから貴方を・・」
思いとは裏腹の言葉を、何の躊躇いもなく吐き出す。
すると振り解くこと出来ない腕が僕を締め付け、首筋を骨ばった指先が撫でた。
「痛かったかい?苦しかったかい?」
聞かれて、僕は小さく首を横に振ると、眉を顰め、瞼をそっと伏せた。
「痛むのだな?ああ、どうしたら赦して貰えるのだろう・・。そうだ、何か望む物はないか?せめてもの罪滅ぼしに、君の望みを叶えてやろう」
僕の望み・・?
そんな物で僕を繋ぎ止めようなんて・・
なんて愚かな人・・・・
「望みなんてありません。でも・・、もしも叶えて下さるのなら・・・・」
「叶えよう、君の望みならば何でも・・。遠慮せず言ってご覧?」
「ならば・・新しい絵筆と絵の具を・・・・」
「そんな物で良いのか?もっと他に・・」
「いいえ、他には何も・・」
「そうか、では明日にでも用意させよう。それとも、一緒に見に行くかい?」
かかった・・・・
「本当に?本当にいいんですか?嬉しい・・」
僕は雅紀さんの肩に腕を巻き付けると、その頬に口付けを一つ落とした。
僕を愛してしまった愚かな貴方に、ほんの僅かな同情の念を抱きながら・・・・