愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
和也は行っただろうか・・
頬を濡らした涙が漸く乾き始めた頃、僕は障子窓を少しだけ開けて、闇の中に目を凝らした。
人の気配は・・ない。
良かった・・和也は無事に屋敷から抜け出せたんだ・・
僕を一人ここに残して・・・・
安堵すると同時に込み上げてくる寂寞(せきばく)感に、一度は乾いた筈の目頭が熱くなる。
「そんな薄着でいては風邪を引いてしまうよ?」
視界に影が広がり、僕は咄嗟に睫毛を濡らした涙をそっと指で拭い、氷の様に冷えた手で障子窓を閉めた。
「いつお戻りに?」
肩に掛けられた半纏を引き寄せ、後ろを振り返ることなく問う。
「つい今しがたね。早く君に逢いたくて、屋敷には戻らずここへ・・・・。さあ、私に顔を見せておくれ?」
春の日差しにも似た暖かな手が、僕の冷えた頬を包み込み、僅かに濡れた睫毛に触れた。
「もしや・・泣いていたのか?」
そう問われた瞬間、僕の心臓が張り裂けんばかりに大きく鼓動した。
決して悟られてはいけない・・
頬を包む手に手を重ね、頬擦りをするようにして、僕はゆっくりとその手の持ち主を返り見た。
濡れた瞳に欲の色を纏わせて・・
「一人でいるのが寂しくて、つい・・」
「ほう・・、一人涙する程、私の帰りを待ち焦がれていたと?」
「ええ、貴方がお戻りになるのを今か今かと・・」
口付けを強請るように、そっと濡れた睫毛を伏せる。
心の奥底で嘲りながら・・
でも、触れる筈の唇は一向に降りては来ず、焦れた僕は伏せた瞼をゆっくりと持ち上げる。
開いた瞼のその先にあったのは、それまで見た事のないような、仄暗い闇を宿した雅紀さんの双眸で・・
怖い・・
僕は咄嗟に視線を逸らした。
「どうして目を逸らす?私の帰りを待っていたのであろう?・・・・それとも、私以外の誰かを思っていたとでも?」
「違っ・・、そんなことは決して・・・・、ぐっ・・」
僕の頬を包んだ手が首筋に降り、じわじわと、まるで真綿のように僕を締め上げる。
「ならば何故そのような・・怯えた顔をする?」
苦しい・・、誰か・・、和也・・、助け・・て・・・・
徐々に意識が遠ざかる中、気付けば僕の身体は、一回り大きな雅紀さんに組み敷かれていて・・
抵抗する間もないまま、僕の着物は乱暴に剥ぎ取られていた。