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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第2章 暗送秋波


智side


そんな目で僕を見ないで・・


固く唇を閉ざし、僕を見上げる和也の目から逃れるように、僕は視線を逸らした。


なのに、


「どうして俺から目を逸らすの?」


「それは・・・・」


和也、お前だけには・・

こんな僕を・・・・
穢れた僕を・・知られたくはなかった。


「もう止めて下さい。俺の知ってる貴方は、こんなことをするような人ではなかった筈だ」


和也の切なげに細められた瞳から、とうとう涙が零れ落ちる。


でも僕は、その綺麗な涙を掬うことも、拭うことも出来なくて・・


月明かりに照らされた白い頬を、涙で濡れていく様を、ただただ見ていることしか出来なかった。


「智さん、逃げましょう?俺と一緒に・・誰も知らない土地に行って、二人で・・」


そうしたい・・
出来ることなら、そうしたいよ・・


この籠の中から、僕を連れ出して欲しい・・
僕だって、出来るなら自由に大空を羽ばたきたい・・


でも・・もう、遅いんだ・・・・


僕は浮かび始めた涙を和也に気取られないよう、そっと瞼を閉じた。


そして突き放すように和也の手を払うと、和也に向かって背を向けた。


その時、まるで夜の静寂(しじま)を割くように、壁の時計が鐘を打ち鳴らした。


いけない・・あの人が帰ってくる・・・・

和也を危険な目に合わせるわけにはいかない。


「もう行って? 後は手紙に書いた通りだから。お前は僕の指示通りに動いてくれればいい」


僕を止めようなんて・・
僕をここから連れ出そうなんて・・

馬鹿なことは考えないで・・・・


「でもそれじゃ貴方が・・」


「僕は大丈夫だから・・。だからもう行けよ!」


見られたくないんだ、お前だけには・・

愛してもいない男の腕に抱かれて、遊女の如く感じるままに嬌声を上げ、歓喜に身体を震わせる僕を・・

和也、お前だけには・・

だからどうか・・、あの人が帰ってくる前に・・


背中に和也の視線を感じながら、僕は後ろ手に障子窓をピシャリと閉めると、崩れるようにその場にへたり込んだ。


僕だって・・許されることなら・・・・


まだそこにいるだろう和也に気取られないように、僕は声を殺して泣いた。
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