愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「無論その通りなのだが‥あの子だけは違ったのだ。」
「どういうことだ?」
「父上と出掛けた帰り道に泣いていた智を連れ帰ったのだ。まだ幼くてね‥放ってはおけなかったのだよ。」
‥‥そういうことか‥。
大野智は拾われた子供だったのか。
「ならば可愛がってやらないとな。」
「ああ、そうしてやってくれ。親の愛を知らぬ可哀想な子なのだ。」
可愛がってやろう‥
‥‥存分にな。
拾われた子供なら、いずれ蔭間にでも身を落とす運命だったのだ。
拾った相手が子爵の家だったというだけのこと。
していることは同じではないか。
あの者はそういう哀れな性(さが)を、自然に身につけてしまったのだ。
ならば他愛も無い‥‥
「さあ、いつまでもこんなところで油を売っていたら、お父上が御冠(おかんむり)になられるんじゃないのか?」
面白い話を聞くことができた俺は吹き抜けの下に目をやり、体良く雅紀を遠ざける口実を見つけて、そう言ってやった。
すると釣られてそこに視線を落とすと、
「どうやら、そのようだな‥。では失礼するよ。」
小さく溜め息を吐いて、階段を下りていった。
あいつはどこまでも逆らえない男なんだな‥。
俺とは違う‥。
そんな弱腰だから、欲しい者も手に入らないんだ。
欲しいと思えば、力づくで奪ってしまえばいい。
‥‥俺のようにな。
退屈な式典の後、集まった旧友達に会食に誘われ、勧められるままに盃を重ねた俺が屋敷に戻ったのは、夜も更けた頃だった。
寝静まった屋敷の中は、俺の帰りを待っていた使用人が起きているだけで、静かなものだった。
「坊っちゃま、お帰りなさいまし。今日は随分と遅うございましたねぇ‥」
俺の帰りを待っていた澤は、脱いだ外套を受け取ると、後に付いて階段を上がってくる。
「ああ、少し酒が進んでな。」
「左様でございましたか。ならば、白湯などお持ちいたしましょうか。」
「そうだな‥寝酒も忘れるな。」
草履の音も立てずに付いてきたその女は、小さく返事を返し外套を掛けると部屋を出ていった。
静かなものだ‥‥
こう寒くては虫の声ひとつ聞こえない。
俺は退屈するのが一番嫌いなんだよ‥
それはお前が一番よく知っているだろう‥大野智