愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
潤side
「ところで‥智は元気にしているか?今更、私が心配することでも無いのだが。」
微笑みを浮かべ、邪推など何も無いような声でそう尋ねた雅紀。
「ああ‥元気にしてるよ。なかなか面白い男で退屈しないね。」
すると、それを聞いた目の前の男は、それまでの微笑みを少し翳らせる。
退屈しない‥
お前にその意味が分かるか‥雅紀。
‥‥分かるまい‥。
存分に可愛がっていたようだから、今あの者が受けている仕打ちなど想像もつくまい。
鎖に繋がれ、淫欲に踊らされているなど、思いもしないだろう。
表情を曇らせた雅紀とは対照的に、可笑しさがこみ上げてくる。
「‥退屈しない‥‥あの子は大人しい子だ。君が退屈しないと感じるような子ではない筈だが。」
確かに‥従順なふりをしている。
だが、それはあの者の本性では無いだろう。
お前はそんなことすら見抜けないほど、骨抜きにされていたのか‥?
間抜けにも程がある。
「そうだったな。退屈しないというのは、言葉の綾だ。気を悪くしたなら、悪かったよ。」
解せないといった口ぶりの男の不安を払拭するかのようにそう言ってやると、
「いや‥それは構わないが‥。」
体裁を重んじたのか、それ以上深追いしてくることは無かった。
「しかし‥あの者は中々のものだな。どこから連れて来た?」
俺は魂胆を隠し、雅紀を誑かした手管で近づいてきた大野智が、どうやってこの男に取り入ったのか、ふと気になった。
だか、それを聞かれた当の本人も困惑したような表情を浮かべ
「どこから‥か。それは結局、私も分からず終いなのだよ。」
その顔を思い出したのか、寂しげに目を伏せた。
‥何を言ってるんだ?
此の期に及んで、まだそんな誤魔化しが通用するとでも思っているのか。
人のいいお前に、そんな芸当ができる訳もないだろうに‥。
「分からない‥?いくらなんでも、それは無いだろう。書生や使用人の身元はしっかり調べているんじゃないのか?どこの馬の骨とも分からない者を屋敷に入れたりはしない筈だ。」
そんなとこを、あの父親が許す筈は無いだろう。
お前と同様、何よりも体裁を重んじる御仁の筈なのだから。