愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「食事が終わったなら、お話はここまでだ。夕食の前に替えの着物を持ってきて上げるから、それまで大人しくしてるんだよ?」
澤が、よいしょとばかりに膳を手に立ち上がる。
本当はまだまだ聞きたいことは沢山ある。
でも急いては、流石の澤だってきっと怪しむだろう‥
僕は澤に礼を言うと、薄い着物の上に潤の羽織を着込み、再び壁に背を凭せかけた。
すると、満腹のせいなのか、それとも背に感じる心地よい温もりのせいなのか、瞼が重くなるのを感じた。
「おやおや、まだまだ子供だねぇ。まあ、今のうちに好きなだけおやすみ。坊ちゃんがお戻りになったら、ゆっくり休むこととも叶わないだろうからね‥」
「‥うん、そうするよ‥」
あの男が帰ってきたらきっとまた‥
昨夜のことを思い出し、身体が俄に震え出す。
またあの液体を飲まされたら‥
あれを飲まされると、急に胸が苦しくなって、身体が宙に浮いたようにふわふわとして‥何も考えられなくなってしまう。
もう二度とあの液体を飲みたくない。
でも、結局あの男の前では平伏すしかない僕には、それを拒むことすら許されてはいない。
やめよう‥
どれだけ考えたって、僕には成す術なんて無いのだから。
そうだ‥
あの味を思い出しながら眠ろう。
甘くて小さな、あの幸せな味を‥
もう僕の口の中で溶けて無くなってしまったけど、僕に幸せな時間をもたらしてくれるあの味だけは、忘れることは出来ない。
そして彼‥翔君のことも‥
嘘をついて学校を休んだと言っていたけど、もし潤に分かったら‥
心配だな‥
尤も、僕が心配したところで、僕は助けて上げることすら出来ないのだけれと‥
会いたいな‥
さっき別れたばかりなのに、もう翔君に会いたくて堪らないよ‥
僕は重たくなった瞼を擦り、いつの間にか高く昇った太陽が燦々と光る空を見上げた。
君も見ているだろうか‥
僕と同じ空を‥‥
ねぇ、翔君‥