愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
智side
翔君が出て行った扉を見つめ、別れ際に僕の口に入れてくれた小さなあまい玉を口の中で転がすと、ころんと弾むような音を響かせる。
僕はそれが楽しくて、この部屋で唯一温もりを感じられる場所に背を預け、それを何度も繰り返した。
でも、そうしているうちに、僕の口の中で小さな玉が徐々に溶けて行くと、今度は急に寂しさが襲ってくる。
さっきまであんなに幸せな気分に満ちていたのに‥
「必ずまた来る」
翔君はそう言ってくれたけど、本当のところは分からない。
あまり期待はしないでおこう。
期待して裏切られるのは、もうごめんだ‥
僕は投げ出した足を腕に抱えると、膝に顔を埋めた。
その時、扉を叩く音がして、咄嗟に顔を上げた僕の前に、膳を抱えた澤が顔を覗かせた。
「おや、思ったより元気そうじゃないか」
澤はそう言って顔を綻ばせると、手にしていた膳を床に置いた。
「昨夜は済まなかったね。あんたのことが気になっていたんだけど、何しろ潤坊ちゃんに止められてしまったからね‥」
そうだったのか‥
いつもなら必ずと言っていい程、澤が後始末にやって来るのに、昨夜はそれすらなかったから、気にはなっていた。
また具合を悪くしているんじゃないか、って‥
「それにしてもまた酷く折檻されたようだね‥」
澤が頬を少しだけ赤らめて、僕の肌に残された赤い痣を目で追う。
折檻か‥あれが折檻だと言うのなら、あの男は相当狂っているとしか思えないけど‥
「今日は‥あの人は‥?」
「潤坊ちゃんかい?坊ちゃんなら貴族様達が集まる会合に出席なさってるよ」
そう言えば父様も良く貴族同士の集まりには、良く参加なさっていたな‥。
「じゃあ、お戻りは遅くなるの?」
「そうだろうね。坊ちゃんのご友人方もご出席なさるそうだから」
その中には雅紀さんも含まれているんだろうか‥
「あ、ねぇ、この間話してくれたでしょ、僕に面差しの似た女性(ひと)のこと‥」
「ああ、そうだったかねぇ‥」
「もっと聞かせてくれない?」
もしそれが母様のことだとしたら‥
もっと知りたいんだ‥
僕を産む前の母様のことを‥
「おかしな子だねぇ‥。ちょっとだけだよ?」
そう前置きをしてから、澤はゆっくりとした口調で語り始めた。